「行方がわからないって、そんな!」
紅子は思わず身を乗り出していた。
四つの御珠で黒珠を封印できるかどうかもわからないのに、三つではとても無理だろう。
「きみも気づいてると思うけど、御珠はどれも精神波を出してる。黄珠も例外じゃない。あれを感知することができれば、日本中、いやたぶん世界のどこにあったってその場所を特定できるはずなんだが……」
その精神波を、感知できない。
何者かが黄珠の精神波を封じ込んでいるらしい。
竜介はそう言った。
そんなことができるものなのだろうか、と紅子は思った。けれど、実際にできる人物がいるからこそ、こんなことになっているんだろう。
でも、いったいだれが?何のために?
「黄珠を本来の場所から持ち出した人間には、だいたい検討がついてる。目的まではわからないけどね」
と、竜介は言った。
「今、うちと白鷺家とでその人物を捜索してるところだ。国外に出た形跡はないから、たぶん、見つかるのは時間の問題だと思うよ」
持ち出した犯人がだれなのかはともかく、見つかるのが時間の問題と聞いて、紅子は少しほっとする。
と同時に、竜介の言葉に驚いてもいた。
日本はたしかに小さな島国ではあるが、一人の人間を探すには広すぎやしないだろうか。
なのに、その捜索を、竜介は「時間の問題」だと言う。
紺野家と白鷺家に、それだけの「力」があるということだろうか。
たとえば、人手とか、組織……企業とか。
そう、企業。
黒珠の石柩を秘密裏に回収しようとしていたらしい井出氏のスポンサーは、竜介達とどういう関係にあるのだろう。
「どうかしたのかい」
むっつりと難しい顔で黙り込んだ紅子に、竜介が怪訝そうな顔で訊いた。
彼女は視線をあげ、相手の、のほほんとした顔をまっすぐに見た。
「確かめておきたいんだけど」
思い切って口を開いた。
「黒珠の封印って、いつ、どうして解けたの」
この質問は竜介をかなり当惑させたようだ。
何事か言いかけた彼をさえぎるように、紅子は言葉を重ねた。
「黒滝っていう遺跡で起こった爆発事故……あれがそうだったんでしょ」
竜介は一瞬、ひどく驚いた様子を見せたが、すぐにそれは苦い笑みに変わった。
「そっか。井出博士の息子さんは……そういや、紅子ちゃんと同じ高校だったな」
紅子は驚かなかった。
「……知ってたんだ」
「うん、まあね」
彼は、カップの底に残ったコーヒーをまずそうに飲み干した。
そして、井出氏の研究所に資金を提供していた企業は、自分の父のものだ、と言った。
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