2023年12月29日金曜日

冬ディズニー2023・三日目

 楽しい旅も、早や最終日でございます。


三日目はランド。入園してすぐにマジミュ一回目公演の自由席狙いで行ったら、すでに満席で受付終了してました💦

ま、到着したのが開演10分前ともなればそうでしょうとも…。

でも、旅の朝くらいホテルでゆっくりしたいですよね(;´Д`)

それに、我々にはまだクラブマウスビート一回目公演がある(`・ω・´)シャキーン

そんなわけでショーベースへ。こちらも一回目は全席自由席です。

開演まで時間があったので、余裕で良い席が取れました(๑•̀ㅂ•́)و✧✨

クラビ開演待ちのあいだにマジミュ二回目公演のエントリーをしたところ、私だけ当選✨

喜んだのもつかの間、よく考えたらマジミュ二回目開演時間が、これから見るクラビ終了から15分後!

なんかこういう展開、一日目にもあったような…(;´Д`)

めちゃめちゃデジャヴを感じながら、クラビ終了後、フォレストシアターへ駆け足~!は、できないので、できるだけ早足で移動しましたε≡≡ヘ( ´Д`)ノ

この三日間は平日と思えないほどの混雑だったので、走りたくても物理的に不可能でしたけどね…。


取れた席はこんな感じ。またもや端っこ。しかも後方。

着席した瞬間、「これ、二階席(自由席)のほうがいいのでは…?」と一瞬思いましたが、せっかく取れた席なので、座って鑑賞しましたとも。

後方だけど、やはり端っこ席は隣の人を気にせず肘掛けを使えて快適でした。そしてやはり見通しがいい(о´∀`о)

マジミュは何と言っても、ラプンツェルとシンデレラとジャスミンの三人揃い踏みの場面と、ヴィランズ乱入場面、そしてラストのミニーちゃんの早変わりが個人的クライマックスです(о´∀`о)

マジミュ鑑賞後はハモカラの場所取りをしてほしいという司令が夫からLINEで届いたので、パレードルートに沿って移動して最前を確保。



ハモカラが終わったら、少し早いですが私は一足先に帰阪のためパークを出ました。

いつも通り、夫と子供は居残り組。


フロート最後尾のドナルドがいい感じに手を振ってくれました(о´∀`о)

また来年~!(^_^)/~

末尾になりましたが、我が家の定宿であるホテルエミオン東京ベイのスタッフの皆様、お世話になりました🙏

パークを運営してくださるキャストの皆様、ありがとうございます🙏

そして、日夜時間通りの運行に努めてくださっている鉄道関係者の皆様、毎日本当にお疲れ様です🙏

私がうっかり落としてしまった切符を届けてくださった客室乗務員さん、おかげで旅を無事に終えることができました。ありがとうございました🙏🙏


※追記(’23.12.30)

今回の旅行で、気づいたディズニーのシステム変更点。

我が家は基本、公式発行のeチケットではなく、旅行会社発行の紙チケット(A4用紙にQRコードが印刷されたもの)を使って入園しています。

以前はエントリーに当選してショー会場に入る際、アプリ画面か紙チケットいずれかのQRコードで入場できたのですが、今回は「アプリ画面のQRコードがないと入れません」とキャストさんから注意され、慌ててアプリを立ち上げる、ということがありました💦

また、プライオリティ・シーティングで予約したレストランの受付時も、以前はキャストさんに予約した時間と名前を告げるだけでOKだったのが、今回は「アプリ画面の予約時間を見せてください」と言われました。

ちょっとしたことですが、パークではいよいよスマホがないと詰む時代が来たな…と思ったできごとでした😅

二日目に戻る

冬ディズニー2023・二日目

 

ディズニー旅行二日目もいい天気~(о´∀`о)

今回の旅行は三日間好天に恵まれて、本当にラッキーでした。

二日目はシーへ入園。入ったらすぐ、ブロードウェイ・シアターへ向かいます。

ビッグバンドビートの第一回公演は全席自由席。開演時間が押していたため、ドセンは無理でしたが、前から数列目というかなり良い席で、家族並んで鑑賞することができました。

BBB鑑賞後はアトラクめぐり。

エレクトリック・レールウェイでポートディスカバリーへ向かい、その後は徒歩でロストリバーデルタ→アラビアンコースト→マーメイドラグーン→ミステリアスアイランド、そしてレストラン櫻の予約時間が迫ってきたのでアメリカンウォーターフロント、というコースをたどりました。


アラビアンコーストで、夫がお腹が減ったというので久しぶりにカスバ・フードコートで休憩。そのついでに撮影しました(о´∀`о)


↑はミステリアスアイランド、海底二万哩のスタンバイ中に撮影。ネモ船長のラボ。

一日目のランドでも思ったのは、平日なのに人多い!ってこと。

冬休みだから当たり前か…?🤔

でも、この時期ってクリスマスとお正月の狭間だし、もっと空いてると思ってたんだけどな~。少々アテが外れてしまいましたね(;´∀`)

夕食後は夜のハーバーショー、ビリーブ!の場所取り。

今回はリドアイルそばの橋の上で立ち見だったのですが、直ぐ側にポップコーンスタンドがあって、とてもいい匂いが…🤤

待ち時間のあいだに誘惑に負けて買ってしまいました。美味しかったです…(๑´ڡ`๑)

それにしても今回の旅行は三日ともいい天気ではあるものの気温はさほど上がらず、この日の夜もかなり寒くて、屋外ショーの鑑賞はちとつらいものがありましたね(;´Д`)

ビリーブ!は、ホテルミラコスタの壁面にプロジェクションマッピングを使った映像が投影されたり、水上のバージだけでなくエリア全体を使ったショーなので、ポンテベッキオとか高いところから見ると壮観で感動的なのですが…

いかんせん、キャラたちはホテル側の客席に向かって手を振りがちなんですよね…ま、確かにそっちのほうが圧倒的に人は多いもんね…

ビリーブ!鑑賞後、前回はソアリンに行ってみたらすでにラインカット後で待機列に入れず、急いでトイ・ストーリー・マニアに取って返したらこちらもすでにラインカット、という虻蜂取らずな苦い経験をしたので、今回はソアリンを捨ててトイ・ストーリー・マニアにしぼりました。

おかげでラインカット前に待機列に入ることができましたヽ(=´▽`=)ノ

ちなみにスタンバイ時間70分(;´∀`)

できたばかりの頃に比べると、短くなったのよね~、これでも。最初の数年は、閉園間際でも120分待ちとか普通でしたからね(;´∀`)

そんなこんなで二日目終了。

三日目へ続きます~

一日目に戻る

2023年12月28日木曜日

冬ディズニー2023・一日目

今回のディズニー旅行、実は出発時にトラブル発生!

なんと、JR在来線が信号機の故障で大幅に遅延。

激混みの電車でもみくちゃになりながら苦労してたどり着いた新幹線プラットフォームでしたが、当然ながら我々が乗るはずだったのぞみちゃんはとっくに出たあと(ノД`)シクシク

仕方ない、自由席にバラバラで座るか…と思っていたら、夫が車掌さんと交渉してくれ、幸い指定席にいくつか空席があり、振替をしてもらえることに。

(まあこう言ってはなんですが、予約してた新幹線に乗れなかったのはJR側の故障のせいですもんね…)

結果、席は多少バラけたものの、スーツケースを置ける座席が取れました!

ヽ(=´▽`=)ノヨカッタ!

窓からはきれいな富士山も見えました✨


その後は順調に舞浜へ到着、本日はランドへ入園。

予定通りならここでランドの昼パレ、ハーモニーカラーズをギリギリ鑑賞できたはずなのですが、そんなわけで見えたのは後半も後半、リメンバー・ミーとかMr.インクレディブルのあたりから。



最後のフロートがミキミニでよかった(о´∀`о)

その後はマジカルミュージックワールドのエントリーに挑戦(`・ω・´)シャキーン

結果、私と子供は当選、夫落選。

しかし!今は自由席があるので、夫は自由席(二階席)へ。

昨年、初めてマジミュを見たとき私は後方のほぼドセンでしたが、今回はこんな感じ。


Cエリア13列18番という席。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、ステージに向かって右の端っこです。

出入りはしやすいけど、ショーの鑑賞位置としてはどうなのかなと思ったんですが、個人的には前回よりショーがよく見えてよかったです(о´∀`о)

前回はわりと前席の人の頭が気になったんよね…(;´∀`)

そしてショーが終わったらすぐ出られたのもよかった。

なぜなら、実はマジミュ終了の15分後にクリスタル・パレス・レストランの予約時間が迫っていたのです~💦

誰か一人でも先にレストランに到着できたらよかったので、私が一番に到着、キャストさんに事情を話して、受付後、店内ソファでしばらく待たせてもらいました。

クリパレのお食事は相変わらず美味でした(๑´ڡ`๑)

お腹が苦しくても、デザートは別腹です(`・ω・´)シャキーン


リトルグリーンまんに40周年記念のチョコプレートがついたミニケーキは外せませんよね!

お腹がいっぱいになったら、エレクトリカルパレードの場所取り。


ちょうどいい場所にお月さまが出ていて、良い写真が撮れました~😆

エレパ後はアトラクめぐり。

今回、初めて「リメンバー・ミー」が加わった新バージョンのフィルハーマジックを観覧したのですが、ルミエールのセリフとか細かいところがあちこち短くなってたり、アニメーションにも修正が入っていたり、ちょっとした間違い探しをしている気分になりました笑

ワールドコンフェクショナリーでおみやげを買ったら、ホテルへ。

一日目はこんな感じで終了。

二日目へ続きます。

2023年12月6日水曜日

紅蓮の禁呪139話「凍える世界で・六」

 



 脳裏に、紺野家の裏山で龍垓と対峙したときの恐怖が蘇り、竜介は黙り込んだ。
 身体の芯から震えがくるような、恐るべき冷気と力の気配。

 あれが、自分と同じ顕化を持つ者――?

 同じ雷槌(いかづち)を使ってはいるが、戦っているとき、力の方向性が自分のそれとは真逆だと思った。
 この世の全てを闇に葬ろうとするかのような、圧倒的な狂気と憎悪。

「同じ顕化の者でも、お前より何千年も前から生きている、文字通り百戦錬磨の猛者だ」

 朋徳が竜介に向かって言った。

「万に一つも勝ち目はない――今のままでは、な」

 そんなことは言われなくてもわかっている。
 妙な含みのある朋徳の言葉に、竜介が反論しようとしたとき、

「何か策があるなら教えてくれ」

 泰蔵が言った。

「勿体をつけるのは、昔からあんたの悪い癖だぞ」

 朋徳は唇の片端で笑みを作ると、

「彼女の記憶だ」

 と、日可理に視線を投げた。

「わたくしが記憶している龍垓と迦陵の力と技のすべてを、わたくしは竜介さまと泰蔵さまにお渡しする用意がございます」

 竜介と泰蔵は顔を見合わせた。

 黒珠側最強の者たちの、いわば手札すべてが手に入る。

 願ってもないことだ。
 封滅術の完了までどれくらいの時間がかかるかはわからないが、それがあればきっと五分の戦いに持ち込むことはできるだろう。
 二人が是非にと答えると、日可理は立ち上がって移動し、彼らの前に正座した。

「どちらからになさいますか」

 と、彼女が尋ねるので、

「俺から頼む」

 竜介が答えた。

 日可理は頷き、彼に向き直った。

「失礼いたします」

 緊張した様子の竜介の顔に、右手をかざす。
 と、白く輝く法円が現れ、不思議な金属音を立てて回転したかと思うと、次の瞬間、消滅した。

 彼女は泰蔵にも同じ動作を繰り返し、記憶の受け渡しはあっけなく終わった。

 竜介にとっては紅子の意識界で彼女と記憶を共有したときほどの没入感はなく、体験としては何ということもない。

 しかし、龍垓や迦陵の記憶とともに、一族の歴史を――特に黒珠が封滅されて以降の歴史を――黒珠の視点から見ることは、少なからぬ衝撃だった。

 彼の知る限り、白鷺家と紺野家には黒珠封滅後の一族の歴史を記した文書が残されており、竜介たち兄弟は実際に読んだことこそないものの、その中身については大雑把ながら泰蔵から聞かされている。

 文書の始まりは今から二千年ほど前で、最後の記事は約五百年前。

 泰蔵は常々その文書について、ところどころ記事に飛びがあり、辻褄や時系列が合わない、と訝しんでいた。

 ざっと千五百年に渡る記録に抜けや齟齬があるのは、長い時を経てきたせいもあるだろうが、勝者側の理屈で書かれたためという理由もあるようだ。

 記録によれば、黒珠の封印は二度破られ、いずれのときも大災厄をもたらしたそうだが、それは黒珠にとっても同様で、封滅の術に抗うたび、彼らの勢力は削がれていった――

 無限に繰り返される屈辱と、終わらない絶望の中で。


「師匠、大丈夫ですか?」

 鷹彦の声で竜介が我に返ると、術による精神的衝撃からか、畳に片手をついてふらつく上体を支え、もう片方の手で額を押さえている泰蔵がいた。

「大丈夫だ」

 泰蔵は苦笑してそう言うと、夢から覚めたような顔で目を瞬いた。

 龍垓と迦陵の持つ異能、身体能力、彼らの記憶を始めとする内面世界の全て、そして黒珠の力の限界――

 黒珠の歴史とともに、それらすべてが彼の中にあった。

「なるほど……これならあの迦陵とも互角に闘えそうだな」

 やれやれと姿勢を整えると、自分の中の新しい記憶を反芻するように何度もうなずきながら、ひとりごちる。

 それから彼は竜介と目を合わせ、ゆっくりうなずいてみせた。
 同じものを見て、同じことを感じたと知らせるために。

「白鷺家のお二人さんを伺候者に入れるという黄根さんの考えも、今更ながら腑に落ちたよ」

 泰蔵が朋徳を見て言った。

 互いの手の内を知り尽くしたもの同士で戦うなら、力の差で勝敗は見えている。
 が、今の竜介と泰蔵ならば、龍垓と迦陵が彼ら二人について知っていることは、異能だけ。

 圧倒的に有利なはずだ。

 それから彼は日可理に視線を移し、

「もっとも、嬢ちゃんにとっては、恨み重なる相手に自分の手で復讐したいところだろうがな」

 日可理は静かに視線を下げる。

「力及ばずと言われても、刺し違える覚悟でした」

 そう言うと、彼女は袂から二枚の短冊を取り出した。

「自分で使うために作ったものですが、泰蔵さま、よろしければお使いいただけますか?」

「これは?」

 泰蔵がみずみずしい墨跡と日可理の顔とを見比べながら尋ねる。

「わたくしの新しい式鬼、雪華(せっか)と氷華(ひょうか)です。必ずお役に立てるかと」

 複雑な文様が描かれているそれらを見た瞬間、紺野家の面々の脳裏をよぎったのは、結界石に貼られていたあの忌々しい呪符だった。

 鷹彦が何か言いたげに口を開きかけるのを、しかし泰蔵は目顔で制した。

 同じ墨跡でも、その短冊がまとう雰囲気には神聖なものが感じられたからだ。

「ありがとう。もらっておこう」

 泰蔵はにこやかにそう応じて短冊を受け取ると、大事そうに懐中にしまった。

 泰蔵と日可理のやり取りが一段落すると、朋徳が口を開いた。

「奴らは我々の行動を読んでいると考えねばなるまい」

 彼にしては珍しく歯切れの悪い発言だった。
 この老人の恐るべき千里眼をもってしても、黒珠の者たちの動向を知ることは難しいのだ。

 龍垓たちの記憶を知る限り、日可理は彼らにとって完全に捨て駒だった。

 記憶を共有してしまった以上、最期は確実な方法で彼女の命を奪おうと考えていたのが、案に相違して、中途半端に生かしたまま置き去りにしてしまった。

 これは痛恨のミスだ。

 彼らは、自分たちの記憶全てが、己の敵に渡ってしまっただろうことを見越して、封滅術が妨害されたときのための策略を巡らせているだろう。

「小僧」

 朋徳が竜介に向かって言った。

「お前は龍垓の記憶に、雷迎(らいごう)という術があるのを見ただろう」

「え?はい」

 竜介はいきなり尋ねられて、当惑しながら答えた。

「天地の気を操って俺たちの先祖に甚大な被害をもたらした、龍垓だけが使う究極の秘術、ですよね?」

 正直なところ、竜介はこの術に太刀打ちできる気がまったくせず、良策があれば朋徳に尋ねたいと思っていたところだった。

「龍垓だけ、ではない。あれは顕化を持つ者ならば使うことができる」

 朋徳老人は言った。

「つまり、お前も使えるということだ」






※筆者注:挿絵は氷華と雪華のイメージイラストです

※筆者注:挿絵を黄根老人のイメージ画像に差し替えました。(12月13日)

2023年11月10日金曜日

紅蓮の禁呪138話「凍える世界で・五」

 


 残る問題は、重力を無視している上に分厚い氷に覆われた場所までどうやって行くのか、ということと、紅子をどうやって助け出すのか、ということの二点となったわけだが、一つ目の問題はあっさりと解決した。

「わたしの異能を使えばよかろう」

 朋徳がそう申し出たからだ。
「ただ、わたしの瞬間移動も万能ではない。黒帝宮の真下からならば何とかなるがな」

「それなら、うちの本社ビルがちょうどいい場所にありますよ」

 竜介が提案した。
 紅子が東京から白鷺家への移動のときにも使った、わだつみホールディングス本社ビルのことだ。
 まさに新宿にあり、ヘリポートを使えば、わずかだがさらに距離が短くなる。
「充分だ」
 朋徳が満足気にうなずく。
 あとは救出方法だけだが、難攻と思われた城まで行く方法が提示された今、すぐにでも紅子のところへ駆けつけたいと浮足立つ紺野家の面々を制し、彼は言った。

「行くのは冬至の夜だ。やつらが儀式を立ち上げる直前を狙う」

「それが賢明と存じます」
 同意したのは日可理である。

「紅子さまの周囲には今、厳重に結界がめぐらされております。たとえ黄根さまの異能をもってしても、近づくことさえできないでしょう」

 紅子さまが黒珠の結界から出されるのは、儀式のとき。
 龍垓と迦陵はわたくしたちの動きを読んで、儀式に張り付きます。
 黒珠の力はすべて儀式に使われ、わたくしたちの侵入を阻むための結界をめぐらせる余力はありません。

 玄蔵が尋ねた。

「『影』たちの存在は無視して大丈夫なのかね」

 さきほど日可理が、「影」は実体と幻の中間のようなものだと言ったことが気になったらしい。

「彼らが実体になれるのは、黒珠に余力があるときだけです」

 と、日可理は答えた。
「儀式にその力が集中しているときは、彼らはわたくしたちに何の影響も及ぼすことはないでしょう」
「じゃあ、俺たちは実体があるやつらだけ相手にすればいい、ってことか」
 鷹彦が早くも楽天的な意見を口にする一方、泰蔵が慎重に問いただす。

「伺候者たちの異能は?」

 日可理は頭を振る。
「彼らは飽くまで儀式の補佐をする『器』として実体を与えられただけですので、異能は持っていません。制圧は容易です」
 すると、鷹彦が上機嫌で言った。
「いよいよ楽勝じゃん」
 しかし、そのとき、朋徳が厳しい口調で言った。

「お前は勘違いをしているぞ。我々の目的は、やつらが我々に仕掛けようとしている儀式を乗っ取ることだ」

 紅子さえ助け出せたらそこで終わり、というわけではないし、龍垓と迦陵との戦闘で人数が欠けることも絶対に避けねばならない。
 なぜなら、伺候者となる四人が足りなくては、元も子もなくなるからだ。
「我々七人のうち、伺候者となる四人はそれぞれ黒珠の伺候者を排除し、そのまま儀式を立ち上げる」
 朋徳が続ける。
「したがって、龍垓と迦陵の相手をするのは三人だ」

「三人だけ……」

 鷹彦の表情が神妙になった。
「儀式が終わるまで攻撃を防ぎきればいいんだ」
 泰蔵はとりなすようにそう言ったものの、内心では己の経験と照らし合わせて、それが言うほどには容易くないだろうとも思っていた。
 そして、それはあの怪物たちと対峙したことのある者全員の共通認識でもあった。

 では、伺候者なら、あの怪物たちと対峙するよりも生き残る確率が高いのかといえば、そうでもない。

 儀式の最中に術圧が大きすぎて命を落とす者たちがいたことを、彼らは魂縒の儀式のとき御珠の記憶として受け継いでいる。
 誰が伺候者となり、誰が龍垓たちの相手をするか。
 沈黙が降りたとき、それを破ったのは朋徳の声だった。

「わたしは伺候者に入る」

 彼は言った。
「紅子に最後の魂縒を受けさせねばならん。黄珠はわたしでなければ召喚できないからな」
 すると、日可理も決然とした表情で口を開いた。

「わ、わたくしは、迦陵と戦います」

「日可理……」
 驚いた顔で何か言おうとする弟を、彼女は制した。
「わかって、志乃武さん。わたくしは決着をつけなければならないの」

「良い心意気だ、と言いたいところだが、それはだめだ」

 朋徳が日可理をさえぎる。
「白鷺家の二人は、どちらも伺候者に入ってもらう。迦陵の相手をするのは、泰蔵さんだ」
 言いながら、彼は泰蔵を見た。
 泰蔵も彼を見返し、二人は無言でうなずき合う。
 伺候者はあと一人。
 竜介は手を挙げた。

「俺も、伺候者に入ります」

 紅子を意識界から連れ戻すときに決めたことだった。
 ところが、朋徳はすげなく首を振った。

「四人目の伺候者は、玄蔵くんに頼む」

「はい」
 玄蔵がうなずく。
 すると、

「え、んじゃ俺っちと竜兄とであの龍垓の相手をす、るんですか」

 玄蔵の隣に座る鷹彦が、慣れない敬語に噛みながら声を上げた。
「坊主、お前さんは壁を作れるんだったな」
 さして親しくもない老人から、いきなり坊主呼ばわりされてむっとしながら、鷹彦はあいまいにうなずいた。
「ええ、まあ」
「お前さんは儀式に邪魔が入らないよう、我々伺候者と神女の周りに壁を作れ」
 相手の不躾な命令口調に、やや不服そうだったものの、それでも鷹彦は、
「……わかりましたぁ」
 と、答えた。

「あの、俺は……」

 朋徳の決定にどうしても納得がいかない竜介が、異論を唱えようと口を開きかけた、そのとき。
 日可理が彼を制した。
「竜介さま」
 彼女は静かに言った。
 龍垓の相手は、あなたにしかできません。

「彼はあなたと同じ、顕化を持つ者なのです」

2023年11月5日日曜日

紅蓮の禁呪137話「凍える世界で・四」

 


 日可理にとって、この日の会合は若干の緊張を伴うものだった。
 何しろ、自分の失態によって多大な心労を被った人々が列席しているのである。
 彼女自身も一応は被害者なのだから、面罵されるようなことはないとしても、冷ややかな視線を向けられるくらいのことはあるだろう――そう覚悟して臨んだ席だった。
 けれど、思いのほかとげとげしい雰囲気はなく、彼女は内心、少し安堵した。

「式鬼を具現化するときと同じ方法で皆様にもご覧いただけるように、わたくしの記憶から再現してみました。実際の大きさはこの十万倍になります」

 彼女は目の前に浮かぶ一メートル四方ほどの大きさの、荘厳な――しかし荒れ果てた宮城を目で示し、言った。

「記憶だけでこれほど細密に再現できる理由については、申し上げにくいことですが、それはわたくしが黒珠に――一瞬ではありますが、黒珠の王にも――憑依されたからです」

 黒珠に憑依されるということは、彼らと精神的に繋がり、記憶や考えを双方向で共有することを意味する。

 特に黒珠の王・龍垓から得られた記憶と知識は膨大で、おかげでこうして彼らの城を再現できたのだが、情報の共有が双方向ということは、黒珠の者たちも、日可理の記憶や知識を得たということでもある。
 そこまで聞いて、鷹彦が腹立たしげに声を上げた。

「それって俺らの持ち札が全部やつらには筒抜けってこと?まじかよ」

 すると朋徳が、

「黒珠の情報も、彼女によって共有されている。一方的に我々が不利になることはない」

 と、静かに抗弁した。

「それに、本日はすでに起きてしまったことをあれこれ詮議するために集まったわけではない。先を続けてくれ」

 泰蔵と玄蔵、竜介の三人は黙ってうなずき、同意を示す。
 沈黙する鷹彦に目礼して、日可理は話を再開した。

「黒帝宮は現在、東京上空、ちょうど新宿副都心の真上にある低層雲の中にあり、地上からはおよそ一キロメートルの高さにあります。
 城はさらに厚さ二メートルほどの氷の殻に覆われていて、外側からは浮遊する巨大な氷の球にしか見えません」

 彼女はそう言うと、幻の城に手をかざす。
 うす青い氷の殻が、城を丸く包んだ。

「この氷の殻は、城を包む特殊な力場の吸熱反応によって形成されたものです。現在、東京上空に居座り、黒帝宮を覆い隠している雪雲も、この力場の影響でしょう。
 東京中心部の地上の気温は、今はまだ零度を下回ってはいませんが、今後もっと下がるはずです。最低でマイナス五十度前後にはなるでしょう」

 東京は雪に埋まり、人はほぼ住めなくなる、という黄根の言葉が裏付けられた形で、誰も驚きを表さなかった。
 だが、続く日可理の言葉に、黄根と白鷺家の二人を除く四人は衝撃を受けることとなる。

「それと、この寒気は同心円状に東京郊外にも広がりつつあります。弟が気象庁から取り寄せたデータで速度を計算してくれましたが、時速五キロメートル前後で広がっているそうです」

 遅い自転車程度の速度ではあるが、放っておけば一週間余りで日本は北海道から九州まで、黒珠の力場が起こす寒波にすっぽりと覆われてしまう速さである。

「単純計算でも、半年経たずに地球全体が氷に覆われ、氷河期が訪れることになるのです」

「全球凍結か?」
 黄根が尋ねると、志乃武がうなずいた。
「ありうると思います」
 すると鷹彦が手を挙げて、
「ごめん、俺わからない。全球凍結って何?」
「文字通り、地球全体が雪と氷に覆われることだよ」
 竜介が答えると、鷹彦は、ええっ、と驚きの声を上げる。
「そんなことある?熱帯地方まで凍るってこと?」
 泰蔵がうなずいて言った。
「たとえ赤道周辺が凍らず、全球凍結を免れたとしても、陸地の大半は雪と氷に閉ざされるだろうな」

 急激な気候変動で作物は育たなくなり、食糧危機が訪れる。
 大気中の水蒸気は大半が雪と氷に変わるため、液体として飲める水も圧倒的に不足するだろう。
 寒さと雪でインフラは崩壊し、燃料は奪い合いになり、都市はスラム化する。

 生き残れる人類は、よくて現在の三分の一――いや、もっと少ないかもしれない。

「頭のいい連中だな」
 半ば感心したように、玄蔵が言った。
「封滅の儀式が失敗したとしても、我々はどのみち寒さで全滅というわけだ」
「じゃあ、無理に封滅の儀式をやんなくてもよさそうなもんだけどな」
 鷹彦が独り言のようにつぶやくと、竜介が言った。
「やつらはそうしてまで俺たちに復讐したいんだろうよ」
 彼らの会話が一段落すると、日可理は話を再開した。

「次に、城内に棲むモノたちについてお話しいたします」

 黒帝宮に棲む黒珠の者たちは、王である龍垓と部下の迦陵を除き、今やほぼすべてが「影」と呼ばれる、実体と幻の中間のような存在の者たちです。

 紅子さまが以前、「黒珠は人を食べる」とおっしゃっていた通り、黒珠の者たちは実体を得るために我々人間の血肉を必要とし、とくに知性を得るには人の脳髄を食べる必要があります。

 龍垓のように実体のある者も、黒珠の者は皆、一般的な物理攻撃で死ぬことはなく、炎珠の神女の炎に焼かれた者も、「影」に戻るだけで完全にこの世から去ることはありません。

「ごめん、ちょっと待って」
 鷹彦が片手を挙げて日可理の言葉をさえぎった。
「その話だと、神女の炎に焼かれて『影』になっても、人間を食えばまた元通り実体を得られる、ってことになるけど、それで合ってる?」
 日可理はうなずく。
「はい、おっしゃる通りです」

 いつ終わるとも知れない寒波で人間社会がひとたび崩壊すれば、世界中が黒珠の者たちにとっては絶好の「狩り場」となる。
 抗う者のいない世界で人を狩り、その血肉ですべての「影」たちに実体を与える。
 黒珠の帝国を、自分たちだけの永遠の楽園を、地上に築く――

「それが黒珠の者たちの最終目的なのです」

 驚愕で黙り込む一同を前に、日可理の話はまだ続く。

「黒帝宮では目下、封滅の儀式を補佐する伺候者たちを、『影』から実体に戻そうとしているところです。わたくしが最後に見たときには、実体化が八割ほど進んだところでしたから、今はもう完成しているかもしれません」

「そんな!」
 竜介は衝動的に立ち上がった。
「それじゃ、ここで悠長に話なんかしてる場合じゃない!やつら、儀式を始めちまう」
 日可理は静かに頭を振った。
「落ち着いてください。まだ大丈夫です」

 儀式の成功には伺候者たちの力が必要です。
 伺候者たちは皆黒珠の者ですから、彼らは黒珠の力が最大化する時を狙って封滅の儀式を行うつもりです。

 黒珠の力が最大化するのは、夜の闇が最も深くなる、新月。
 黄根が言った。

「今度の新月は、冬至だ」

 夜の闇が最も深くなる新月と、その闇が最も長く続く冬至。

 これら二つが奇しくも重なる日に、封滅の儀式は行われる、日可理はそう宣言した。

 あと一週間あまりで、その日はやってくる。

2023年10月24日火曜日

紅蓮の禁呪136話「凍える世界で・三」

 


 謝りたいこと――

 そう聞いたほんの一瞬、鷹彦の顔から笑みが消えた。

 兄が言おうとしていることを、彼がどれほど察していたかはわからない。

 ただ、竜介が言葉を続けようと息を吸い込んだとき、待ったをかけるように片手を上げて、鷹彦は言った。

 その顔には、再び笑みが戻っていた。


「とりあえず、風呂行かね?汗で冷えてきちゃったよ」



 以前にも書いたが、紺野邸の浴室は、大人三人が余裕で同時に入浴できるくらい広い。

 話の続きは風呂の中でもできるだろ、と鷹彦が言うので、むさくるしい男二人で一緒に入ることになった。

 自宅の風呂に兄弟の誰かと入るのは、子供の頃以来だ、などと思いながら、彼は末弟と一緒に浴槽に身を沈めた。

 冷えた身体が湯の中でゆるむと、二人同時、まるで申し合わせたように変な声が出て、思わず顔を見合わせて笑う。

 その後、沈黙が訪れた。

 いつもなら何か冗談を言うだろうはずの鷹彦が、静かだった。

 無言のうちに話の続きを急かされているような気がして、竜介は少し緊張しながらおもむろに言った。

「白鷺家で、お前に言ったよな。紅子ちゃんは、涼音と同じだ、って」

 鷹彦は首肯した。

「言ったね」

「あれ、撤回させてくれ」

 竜介は、隣にいる鷹彦の顔を見ず、まっすぐ前を向いたまま、言った。

 全身から汗が吹き出しているのは、湯が熱いせいだけではないだろう。


「お前に同意するよ。紅子ちゃんは、涼音とは違う」


 沈黙を恐れるように、言葉を続ける。

「俺は最初、本当にお前の恋愛を応援するつもりだった。でも……彼女を失ってみて、自分の気持がやっとわかったんだ。俺は、紅子ちゃんとのことではお前にもう協力してやれない……すまない」

 鷹彦は今言われたことを吟味するかのようにしばらく沈黙してから、言った。

「ガキをどうこうする趣味はねえ、とか言ってたのにな」

 反論の余地はなく、苦笑するしかない。

「別に今もそういう趣味はねえよ」

 竜介は額から落ちてくる汗を、両掌で顔を覆うようにして拭いながら言った。

「矛盾してるのはわかってる。でも、自分に嘘をつくのは、もうやめたんだ」

 鷹彦はふうん、と鼻を鳴らして、

「竜兄、覚えてる?」

 と尋ねた。

「ガキの頃、俺が欲しがったら、竜兄は何でも譲ってくれたよな……自分が大事にしてるおもちゃでも、好きなお菓子でも、何でも」

「そうだっけ」

「そうだよ。俺、お袋さんに怒られたもんな。『竜介お兄ちゃんのものを何でもかんでも欲しがっちゃいけません』て」

「そういや、俺も『鷹彦に少しは我慢ということを教えたいから、甘やかさないで』って言われたな」

 竜介は埋もれていた記憶を懐かしく思い出しながら言った。

「我慢は虎光が教えてるから大丈夫だよ、って言い返したら、『そういうことじゃありません!』て怒られたっけ」

「それ、お袋さん言いそう!」

 二人の笑い声が、湯気で白く煙る浴室に響く。

 笑いがおさまってから、鷹彦が言った。

「竜兄が譲らないなんて、初めてじゃん?俺、正直びっくりしてるんだ」

「譲るも何も、紅子ちゃんはおもちゃでもお菓子でもねえし」

「わかってるよ」

 鷹彦は、ヘヘっ、と笑った。


「ただ、竜兄とやっと対等になれた気がしてさ、今、ちょっと嬉しいんだ」


 竜介が怪訝な顔をすると、鷹彦は

「うーん、どう言えばいいかな」

 少し考えてから、こう続ける。

「譲ってもらうのはそれはそれでありがたいよ。こんなに甘えさせてくれる兄貴はそうそういないし、俺、竜兄のことは本当に好きだし尊敬してる」

 けど、と彼は言った。

「この歳になってもソレだと、ガキ扱いされてんだなって思うこともあるわけさ。だから、自分の欲しい物は自分で取りに行けるんだぜってところを見せたいって、ずっと思ってたんだよ」

 今度は竜介が驚く番だった。

 まだ学生で、子供だと思っていた鷹彦がそんなふうに思っていたとは。

 彼は頭を掻いた。


「すまん。俺、余計なことしてたんだな……」


 すると鷹彦は慌てて片手を顔の前で左右に振り、

「いやいや、俺も竜兄に甘えてたから」

 と言った。

「それにしても、俺っち人生で初めて竜兄に譲ることになりそうなのが、まさか恋愛沙汰とはね」

「お前に譲ってもらおうなんて微塵も思ってねえよ」

「おや、じゃあ俺っちも本気で取りに行くぜ」

「望むところだ」

 二人は顔を見合わせて笑う。

 いつしか、鷹彦を牽制したい気持ちは消えていた。

 鷹彦はそれを知ってか知らずか、笑いをおさめると、言った。


「冗談抜きでさ、紅子ちゃんは竜兄のこと、好きだと思う」


 竜介は、日可理に小さな黒珠の怪魚を飲まされそうになったときのことを思い出しながら、

「どうだろうな」

 と曖昧に笑った。

 あの場面を紅子が誤解していても――

 彼女の気持ちは、まだ俺の手の届くところにあるだろうか?


 * * *


 翌日午後。

 日可理と志乃武が泰蔵の寺に到着してみると、客間にはすでに玄蔵と竜介・鷹彦兄弟のほか、黄根老人もそろっていた。

 玄蔵及び朋徳とは初対面の日可理たちは、彼らに改めて挨拶をした後、今回の不手際に対する詫びを口にしようとしたが、朋徳が片手を挙げて二人を制した。


「気遣いはありがたいが、時間が惜しい。紺野家のかたがたに異存がなければ、わたしとしては早速本題に入ってもらいたいのだが」


 どうだろう、と彼が紺野家の四人に視線を投げると、泰蔵が鷹揚にうなずき、

「わしもそれで構わんよ」

 と同意したため、他の三人もそれにならう。


「かしこまりました。では――」


 日可理は一礼すると、何かを投げるような仕草をした。

 すると、その手から放たれた白い光が、彼らの囲む座卓の上に、ふわりと浮き上がり――

 次の瞬間、卓上全面を覆うほどに大きく膨らむと、広い庭園に囲まれた、瀟洒な宮城へ――より正確に表現するなら、その廃墟――へと姿を変えた。

 かつての栄耀栄華をそこここにしのばせる、異形の棲まう城。

 その幻を前に、彼女は言った。


「わたくしが知り得た黒珠に関することすべて、皆様にお話しさせていただきます」




ーーーーー

※筆者注※

画像はBingAIにより作成しました。

2023年10月6日金曜日

紅蓮の禁呪135話「凍える世界で・二」


  志乃武と電話で話した結果、彼ら姉弟の来訪は、明日の午後一時に決まった。

 竜介は泰蔵のところで夕食を済ませると、本邸にもどって鷹彦の姿を探した。

 明日のことを伝えるためだ。

 本邸での夕食の時刻もすでに終わっているから、おそらく鷹彦は自室にいるだろうと思っていた。

 ところが、見当たらない。

 闇雲に探すよりはと、台所へ行き、滝口と夕飯の片付けをしていた英梨に尋ねてみた。


「鷹彦さんなら、この時間は駐車場で体術の練習をしてたと思うけど」


 外は思いのほか、寒かった。

 玄関を出て前庭を抜けた奥にある、テニスコート二面程度の広場。

 それが紺野邸の駐車場である。

 広場の大半を占めるのはシャッター付きの大型車庫で、日が落ちたあとでも車の出入りに支障がないよう、照明が完備されている。

 玉砂利が敷かれた庭と違い、舗装が行き届いて足元の安定もいいので、来客の車がない限り、ここは子供の頃の竜介たち兄弟にとって格好の遊び場だった。

 竜介が来てみると、英梨が言った通り、照明が煌々とともって人の気配がしていた。


「鷹彦」


 明かりの中の人影に声をかけると、闇の中で吐息が白く凍えるのが見えた。

 人影はそれまでやっていた動きを止め、こちらを振り返る。

 明かりの中に入ると、影法師が鷹彦の姿に変わった。

 鷹彦も兄の姿を認めたらしく、


「竜兄、お帰り」


 と、荒い呼吸を整えながら言った。

「母さんからここだって聞いて……邪魔したかな」

「いや、ちょうど休憩しようと思ってた」

 淡々とそう答える鷹彦の全身からうっすらと湯気が立ち上っている。

 彼は少し離れた植え込みに向かうと、枝に引っ掛けてあったスポーツタオルを取って汗を拭い、足元の水入りペットボトルを拾い上げて中身を飲んだ。

 ボトルを勢いよく傾けたせいで、口元から水がこぼれると、それをタオルで汗と一緒に無造作にぬぐう。

 そんな仕草の一つ一つがこれまでの鷹彦とは別人のように男っぽく、竜介は奇妙な焦燥を感じた。


「毎日ここで鍛錬してるのか?」


 訊くともなく訊いてみる。

「師匠にも稽古をつけてもらったって聞いたけど」

「まあな。他にやることもないし」

 鷹彦はちょっとはにかんだように笑う。

 その笑顔は間違いなく竜介が知っている鷹彦のものだ。

 だが、彼が少しほっとしかけたそのとき、鷹彦はふと真顔になり、

「……俺さ」

 と、続けた。


「黄根のじいさんが言った通り、ほんとにこのあと紅子ちゃんを助け出すチャンスが巡ってくるなら……その役目は、俺がやりたいんだよね」


 そこにいたのは、鷹彦の顔をした知らない男だった。

 当惑する竜介の脳裏に、なぜだか遊んでくれとつきまとってきた小さい頃の鷹彦の姿が蘇り、無性に言動をからかってやりたいような、茶化してやりたいような衝動を覚えた。

 何なのだろう、これは。

 足の裏がムズムズするような、この居心地の悪さは。


「それより、なんか俺っちに用があって来たんじゃねーの?」


 そう言われて、竜介はようやく我に返った。

「実は、明日のことなんだが……」

 白鷺家の二人が来ることと、黄根も同席することを伝えると、鷹彦の顔に喜色が広がる。

「そっか……俺たち、やっと動き出せるんだ」

「じゃ、お前も明日、一緒に来るんだな?」

「当たり前だろ!行かねえ選択肢なんかねえよ」

 鷹彦はそう言うと、両拳を夜空に突き上げた。

「よし、断然やる気が出てきた!稽古再開すっか!」

「怪我に気をつけてな」

 と、竜介が立ち去りかけたそのとき。


「ええっ、なんだよ。久しぶりに竜兄も付き合ってくれるんじゃないのかよ」


 不満げな鷹彦の声が、彼の足を止めた。



 鷹彦と稽古なんて、何年ぶりだろう――

 竜介はそんなことを思いながら、腕を交差させて鷹彦と互いの左右の拳を軽くぶつけ合う。

 紺野家ならではの組み稽古開始の挨拶。

 だが、それが終わった途端、鋭い正拳の連打が襲いかかってきて、思い出を懐かしむ気持ちなど一気に吹き飛んでしまった。

 相手の勢いに押されるように、やや後退しながら、左右に拳を弾くように払う。

 続く二段蹴りはさすがに避けきれず、竜介は後ろにトンボを切って、一旦大きく間合いを取った。

 楽しくなってきた。


「力に頼りきりかと思ってたのに……驚いたぜ」


 彼が拳を構え直しながら言うと、鷹彦も同じ構えを取り、ニヤッと笑う。

「男子三日会わざれば、ってヤツさ」

 その言葉が終わらないうちに、鷹彦は再び踏み込んだ。

 しかし、今度は竜介も同時に間合いを詰める。


 激しい拳と蹴りの応酬。


 時折互いの口から漏れる鋭い気合いと、筋肉がぶつかり合う重い音が、夜暗に吸い込まれていく。

 自主練である程度ウォームアップが済んでいた鷹彦と、いきなり組み稽古に入った竜介とで、最初のうち、やり取りはほぼ互角だった。

 が、しばらく動くと竜介も身体が温まってくる。

 勝敗は、どちらかが「待った」をかけるか、地面に倒れたときに決する。

 ちなみに、大きな怪我をする恐れがあるため、力は使わない。

 だから、今この場を照らすのは、人工照明だけ。


 ひやりとする場面が増えてきた鷹彦は、この照明を利用する作戦に出た。


 攻撃を躱しながら照明を背にすると、思った通り、竜介は――心持ち、ではあるが――眩しそうに目を細めた。

 その瞬間を逃さず、連続ハイキック。

 が、その渾身の攻撃は空を切り――


「甘いぜ」


 そんな声が聞こえたと思った、そのときにはもう竜介の顔と拳がすぐ目の前に迫っていた。

 蹴りに使った右足に急ぎ重心を移し、相手の打拳を鷹彦は胸の前すれすれで躱す。

 間合いを取ろうと左足を引いた、次の瞬間、左の膝裏に何かが引っかかった。


 やばい。


 そう思ったときには、彼はすでに地面に仰向けに倒れていた。

 夜空を見上げて呆然としていると、竜介の顔が遠慮がちに上から覗き込んできた。


「勝負あったってことでいいか?」


 と尋ねられ、鷹彦はアスファルトに寝転がったまま、口を尖らせ答えた。


「へいへい。負けましたぁ」


 兄が差し出してくれた手につかまって立ち上がる。

 服についた砂埃を払いながら、

「ちぇっ、最後のハイキックは絶対決まったと思ったのに」

 などとぶつぶつ不平を鳴らしていたが、最初と同じ左右の拳を交互にぶつけ合う挨拶が終わると、なぜか気分がすっきりして、気がつくと笑いながら兄にこう言っていた。


「でも、久しぶりに楽しかったぜ。付き合ってくれてありがとう」


「うん。俺も楽しかった」

 と、竜介もにっこり応じる。

 だが、すぐに彼は真顔に戻ると、言った。


「鷹彦。……俺、お前に謝らなきゃいけないことがあるんだ」

春ディズニー2024・三日目

 楽しい旅行ですが、最終日となりました。 おまけに雨模様☔ この日はマジミュもクラビも一回目公演が午後1時以降。 で、エントリーしてみましたが… 結果、  全 滅  (# ゚Д゚)💢 春休みで混雑してるし土曜日だし、というのはわかりますが、それでも今回、三日間の旅行で  エ ン...