2024年12月31日火曜日

紫のあとがき


毎度拙ブログをご覧いただきありがとうございます。

あとがき、などとタイトルにはありますが、有り体にいえば初めてミステリーを書いてみた感想でございます。

『紫の研究』のタイトルは、言わずと知れたコナン・ドイル大先生の超絶ウルトラ有名なシャーロック・ホームズシリーズ『緋色の研究』にちなんでおります。

ただし、中身については、前後編で10分くらいで読み終えることができ、年末に読んでなるべくモヤッとしない、犯罪とまでは言えないような小さな事件にしたいなぁと思ったので、北村薫先生の「円紫さんとわたし」シリーズのようなものをずっと念頭においていました。

ご存じない方は『空飛ぶ馬』とか超おすすめです。

あと参考にさせていただいたのは、いわゆる「アホバカミステリー」と呼ばれている(らしい)蘇部健一先生の『六枚のとんかつ』。

これもおすすめ。物語のテンポとかオチの付け方とか、とても参考になりました。

なにしろ短編なので、登場人物は最小限、人間関係もなるべくシンプルにしたい。でもミステリーなので話に意外性もほしい。

それで私の頭に一番最初に浮かんだのが、冒頭の一文、

「仮装パーティーにメイドの衣装で参加したら、本物のメイドに間違えられた」

でした。

「え、そんなことある?」

私もそう思います笑

てゆーか、ないだろ現実にそんなこと。それならどうしたらありうるのか?と思ったのがきっかけ。

アイデアは出てくるけど、それを全部入れてたら短編にはなりません。

そこで紙にキャラ設定と相関図、話の展開について思いついたことを片っ端から書いていき、いらない部分はバッサリ削ぎ落とすということを繰り返しました。

ちょっとボンヤリして流されやすい主人公のキャラは変わらずでしたが、雅緋と紫音はほぼ真逆といっていいほどキャラが変わりました。

雅緋は最初の設定では宝石商で働くチャラい彼氏がいる羽振りの良いキラキラ系女子で、紫音にいたってはごく普通の美女でした。

それが、雅緋は妹の進学費用を稼ぐために会社勤めだけでなく週末バイトまでする健気なお姉さん、紫音は紫ドレスのマッチョ。

雅緋は話を書いていくうち余計なキャラを出さないようにしたら自然とそうなりました。

紫音は、最初の登場シーンが、普通に女性だとあまりインパクトなさすぎたので…

形部係長(紫音の兄)出す必要なかったんじゃね?とも思いましたが、紫音がどうやってパーティーチケットを入手したのかと考えたとき、兄が会社で(おそらく雅緋から)もらったチケットを使ったとするのが妥当かな~と思うので、出演は妥当だったのだと思っています。

これは本編のどこかにちらっと書いておけばよかったな。反省。

CBDについては、最近法律が変わったというニュースが報道されたりしたので、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。

海外ではすでに医薬品として認められた製品もあるようなので、日本でも今後、輸入が増えたり、研究が進んで国内で精製された製品が出回ることを見越しての法律改正なのかなと思ったりしました。

さて、紫音が雅緋から買った小箱は、果たして適法なCBD製品だったのか、それとももっとグレー、あるいはアウトな製品だったのでしょうか。

そして、彼の「クライアント」はいったい誰だったのか。

すべての謎を解いてしまうと面白くないので、読者の皆様に自分で考えていただくために残しておきました。

どうぞご自分なりの答え探しを楽しんでみてくださいね。

では、どうぞよいお年を!

2024年12月30日月曜日

紫の研究(後編)

 


 なんだか妙な展開になってきたぞ。


 ホテルの廊下を歩きながら、私は思った。

 私の前には、パーティー会場で声をかけてきた黒服と、形部兄弟の背中が並んでいる。

 分厚い絨毯が全員の足音を吸い込んでしまう。

 パーティー会場とは対象的な静かさだ。

 先頭を歩いていた黒服は、「第一会議室」という札がかかった観音開きの大きな扉の前で立ち止まると、ノックした。

 中から扉が開くと、黒服は私たち三人を先に通してから、扉を閉じる。


「パープル・ヘイズ、ある?」


 私も何度かパーティー会場でそう訊かれた。

 私はもちろんわからない。だから他のスタッフに繋ごうとすると、タイミングよく宝石商の黒服の一人が現れて、客たちを連れて行く。

 そんなわけで、私はてっきり宝飾品のブランド名か何かだと思っていた。

 ところが、私たちが連れて行かれた部屋には、宝飾品のたぐいはまったく見当たらなかった。

 部屋の片側には、壁に沿って簡素な長机が置かれ、電気湯沸かしポットが数台と、未使用らしく伏せて置かれているティーカップとソーサーが数セット。

 さらにその奥には、いろいろな大きさの化粧箱と、サンプルと書かれた小瓶が並んでいる。

 落ち着いた紫色の化粧箱の天面には、

 「Purple Haze」

 という金文字が並んでいて、パーティー会場の半分くらいの広さのこの部屋では、それだけが唯一華やかな雰囲気をまとっていた。

 長机の反対側は、通路を挟んで小さな丸テーブルが十五個ばかりと、それぞれにソファが二脚ずつ、やや詰め込み気味な距離感で並べられている。

 白いカバーのかかった卓上には、飾り気のない白いティーポットと、同じく白いソーサー付きティーカップだけ。

 席に着いているのが全員、仮装パーティーの客なので、ごてごてした格好と簡素なテーブルセットのコントラストがなんとも珍妙だ。

 さらにいうと、テーブルはほぼ満席状態だが、一人客が多いせいか、全員がおしゃべりもほとんどせずただしずしずとお茶を飲んでいるだけなのも、なんだか異質な気がした。


 茶菓子のないお茶会?


 などと思っている私の横で、形部兄弟が謎の目配せを交わした、そのとき。


「えっ、ちょっとなんで連れて来ちゃうの」


 すぐそばで聞き覚えのある声が言った。

 それは誰あろう、私をこのパーティーに連れてきた同僚、堀道雅緋(ほりみちみやび)の声だった。

 私と同じメイド服だが、パーティーの客であることを示すオレンジのリボンを外している。

 会場で見当たらなかったはずだ。こんな別室にいたとは。

 私は少し腹が立った。席を外すなら事前にそう言えばいいのに。


「堀道さん。私、はぐれたと思って探してたんだけど」


 そう咎め立てると、なぜか室内にいた全員が――形部兄弟も含めて――何かいわくありげにこちらを振り向き、名指しされた当人はぎょっとした様子であたふたと周りを見ながら、唇の前に人差し指を立てて小声で言った。

「ちょっ、ここで名前呼びはやめて」

 私が口を開こうとするのを片手で制し、彼女は私たちを連れてきた黒服に、


「このリボン着けてるメイドはこっちに来させないでって言ったでしょう」


 すると、きつい口調で叱られた黒服はしどろもどろ。

「え、でも……連れだっていうから……」

 雅緋は大げさにため息をつき、何か彼に言おうとしたのだが、


「そろそろ失礼するよ」


 恰幅の良い海賊船長が雅緋に声をかけてきた。

 雅緋は慌てて居住まいを正して本日はお越しいただきまして、などなど長々と謝礼の意を述べ、

「会場にお戻りですか?」

 と尋ねた。

 だが、相手が帰ると言うので、彼女は

「承知いたしました」

 と答えてから、件の黒服くんに命じた。

「玄関までお送りしてください」

 黒服は雅緋に小声で、すみません、と謝ると、海賊船長を案内して部屋を出て行った。

 扉が閉まるのを見届けてから、彼女は私たちに――というか、形部兄弟に向き直り、

「大変失礼いたしました。ご試飲ですね」

 と、たった今、空いたばかりのテーブルに私たちを誘導しようとする。

 が、紫音はそれを制して言った。

「それより、」

 一段と声をひそめて続ける。


「ヘイズがほしいんだけど」


 すると、雅緋は再び、承知いたしました、とかしこまると、私と形部兄をとりあえず椅子に座らせてから、紫音と二人、紫の小箱が並ぶ長机のほうへ移動した。

 彼らはそこで顔をくっつけるようにしてひそひそ話をしていたと思うと、わりとすぐに戻ってきた。

 紫音はにっこりして私に言った。


「私たちこれで帰るけど、あなたどうする?」


 私が雅緋を見ると、彼女はどうぞ、というように頷いたので、お言葉に甘えて帰ることにする。

 雅緋は室内にいた他の黒服を呼んで、私たちをホテルの玄関ホールまで送るように指示した。

 クロークで手荷物や上着を受け取ったあと、私がスマホを出して自宅までの経路を検索しようとしたとき、車で近くの駅まで送ろうと形部兄が申し出てくれたので、ありがたく受けることにする。


 言っておくが、いくら流されやすい私とて知らない男の車にほいほい乗ったりはしない。あくまでも彼が同じ会社に勤める上司だからだ。


 しかしまあ本音を言えば、これで立食式で疲れた脚を休ませられると内心嬉しかったことは否めない。


 地下駐車場へ向かうエレベーターに乗り込み人目がなくなると、誰からともなくマスクをはずして互いの顔を確認し合う形になった。

「あーもう、やっとスッキリした。このマスク、やたら目の周りがムレない?」

 そんな文句を言いながらバッグからコンパクトを出し化粧を直す紫音は、隣に立つ係長とよく似た整った顔立ちで、二人に血縁があることは確かなようだ。

 彼に習って、私もメイク崩れをチェックしていたところ、エレベーターが止まった。

 高級車がずらりと並ぶ薄暗い地下駐車場の中、彼らが私に「どうぞ」とドアを開けてくれたのは、国産メーカー製でありふれた中型の白いフォードアセダンだった。

 彼らは紳士的に私に後部座席を勧めてくれ、兄は運転席、弟は助手席におさまる。

「都鶏(つげ)くんは〇〇駅まで送ればいいんだな」

 車をスタートさせながらそう確認する係長に、私は「お願いします」と返す。

 と、紫音が何か思い出したようにシートベルトを締める手を止めて、


「そうそう、これ渡しておくわ」


 身体をねじって私のほうに小さなカードを渡してきた。

「車の中でごめんなさい。ホテルだと人目が気になっちゃって」

 それは彼の名刺だった。

 西蓮寺紫音という彼の通称名と、「サイレン探偵事務所所長」という肩書、そして紫色のロゴマークは、魚のヒレのような飾りをつけた中世風の兜をかぶる女性の横顔が単純化されて描かれていた。

 車が地上へ出た。

 空はもう暗かったけれど、クリスマスイルミネーションのおかげで道路は昼間なみに明るい。

「探偵さんだったんですね」

 私が話しかけると、紫音は肩越しに、

「便利屋みたいなものよ。浮気調査からペットの捜索まで色々やってるから、困ったことがあったらお気軽に相談してね」

 と、ウインクをよこした。

 私は言った。

「訊いていいですか?」

「いいわよ」

 紫音は前を向いたまま答える。

「ただし、守秘義務があるから、私が答えられるかどうかは質問によるけど」

「あのパーティーで、私、パープル・ヘイズはあるかってしょっちゅう訊かれましたけど、パープル・ヘイズって何ですか?」

「あのパーティーを主催してる宝石店が、副業的に売ってるお茶のブランド名」

「ただのお茶をなんでコソコソ隠れるようにして別室で飲むんですか」

 彼は軽い口調で答えた。


「大麻茶だからよ」


 た、大麻!?

「あの、麻薬の大麻ですか!?」

「まあ世間的にはそういう認識よね~」

 苦笑交じりにそう言って、紫音は大麻から取れる薬効成分には大きく二つあって、そのうちのCBD(カンナビジオール)と呼ばれる成分は中毒性がなく、最近は抗うつ作用や鎮痛作用などを期待してハーブティーやアロマオイルにCBDを添加したものが合法的に売られているのだと説明してくれた。

「つまり、あの部屋で売られてたパープル・ヘイズはそういうお茶ってわけ。でも、やっぱりイメージがよくないから、別室でああやって売ってるんでしょうね」

 

「じゃあ、紫音さんが買った”ヘイズ”もそういうCBD入りのお茶なんですか?」


 一瞬の沈黙。

 あれ、私なんかまずいこと訊いた?

「目がいいのね」

 本気で感心しているのか、それとも皮肉なのか、よくわからないため息とともに彼は言った。

「見る?」

 私が何も言わないうちに、彼は紫の小箱を肩越しに投げてよこした。

 タバコの箱くらいのサイズだが、意外に重い。

 中身は圧縮して売られている中国茶みたいな感じなのだろうか。

 「HAZE」と金文字で書かれた瀟洒なラベルのほかは、中身の見当がつきそうなものは何もなかった。

「中身は私も知らないの」

 紫音が言った。


「ただの高級なお茶なのかもしれないし、それとも他の何かかもしれない。私がクライアントに頼まれたのは、ただあのパーティーで”ヘイズ”を手に入れてきてほしい、それだけ」


 それって……。

 私が口を開こうとしたそのとき、係長が言った。

「都鶏くん、着いたぞ」

 私は紫音に小箱を返すと、お礼を言って車を降りた。

 すると、紫音が助手席の窓を開けてにっこり手を振りながら、言った。

「またね」



 あれだけさんざ飲み食いしたのに、不思議なことには家に帰って風呂に入ると小腹が空いた。

 私は冷蔵庫からダイエットコーラと魚肉ソーセージを出して、コタツに入った。

 ギョニソはパッケージのフィルムを破ってそのままかぶりつくのが一番美味いというのが私の持論だ。

 ダイエットコーラはあまり好きではないが、罪悪感と美味とを秤にかけた結果である。

 そうして食べ慣れたものを味わいながら、なんやかんやあった今日を思い返すうち、だんだん腑に落ちてきたことがあった。


 あの場所での私の奇妙な存在意義。

 メイドの格好なのにメイドじゃない。

 知り合いじゃなくても話しかけることができる。

 目立つようで目立たないオレンジのリボンと、衣装。

 全部に何かの意味があったのだ。

 でもそれは、雅緋本人に確かめればいい。

 私はそう思いながら、ハンガーラックにかけた彼女からの借り物の衣装を眺めていた。



 一週間ほどして、私はメイド服を紙袋に入れて、堀道雅緋の机まで持って行った。

「堀道さん、これ、クリーニングしといたから」

 雅緋は紙袋を受け取ると、中身を確認して、

「うん。わざわざありがとうね」

 それからこう続けた。

「都鶏さん、今、時間ある?」


 私たちは打ち合わせ用の小ブースに移動した。

「パーティー、誘ってくれてありがとう。一応お礼を言っておくわ。料理おいしかったし、めったにない体験もできたし」

 雅緋は私の言葉を無視して尋ねた。

「あの紫ドレスの男と知り合い?」

「知り合いなわけないでしょう。勝手に連れってことにされただけよ」

 半分本当、半分嘘。全部真実を伝えようとするとややこしくなるから。

 雅緋の顔があからさまに安堵するのを見て、私は複雑な気分になった。

 ホッとするのはまだ早いよ、悪いけど。

 私は一番尋ねたかった質問を口にした。


「私、あのパーティーでは、パープル・ヘイズを売ってるって客に知らせる役だったのよね?」


 私が、というかリボンをつけたメイドがいれば、「パープル・ヘイズ販売中」、いなければ「今は売ってない」。

 そしてホテル側には知られないように、パープル・ヘイズを買いたい常連客と、黒服とをつなぐ役。

 私に話しかける客がいると、必ず黒服がフォローに寄ってきたのはそのため。

 仮装パーティーで紛らわしい、目立つようで目立たないメイド服は、一種のカモフラージュだ。

 そして肩で揺れるオレンジのリボンは、常連客にはよく見知った目印。

 おそらく彼ら宛の招待状には、「いつもの御品をご希望の際は、肩にオレンジのリボンをつけたメイドにお申し付けください」とでも書いてあるのだろう。


 雅緋の口元が、きゅっと引き締まる。

 どう申し開きをしたものか、言葉を探しているのだろう。

 しばしの沈黙のあと、彼女は言った。

「怪しいことをしてるわけじゃないわ。ただ、イメージ的にホテル側がいやがるから。いつもは、妹に頼んでるんだけど、もうすぐ受験だから、勉強を優先させてやりたくて……」

「背格好が似てたのね、私と」

 彼女は小さくうなずいて、手元に視線を落とした。

「黙っててごめんなさい。事前に言ったら断られると思ったから」

 それは誰でも断るだろう。と思ったけど口には出さない。

 雅緋は続けた。

「妹の進学費用のために土日だけあの宝石店でバイトしてるの。パーティーの手伝いもその延長で……あの、勝手なお願いだけど、会社の人には言わないでくれる?」

 私は口外しないことを約束し、妹さんの大学合格を願っていると言って、お互い仕事に戻ったのだった。


 ところで、例の強烈な弟を持つ形部係長だが、奇しくもこの日の終業後、一階に降りるエレベーターでばったり会った。

 彼が深刻な顔で

「ちょっと話がある」

 と言うのでついていくと、彼は会社のロビーでコーヒーを奢ってくれた。

 さすが上司、雅緋よりサービスがいい。

 で、彼の話はなにかと聞いてみれば、弟のことを口外しないでほしいという、それだけのことだった。

 一日に二度も他人から秘密を口外してくれるなと懇願されたのは、四半世紀生きてきて初めてだ。記念日認定せねば。


「言いませんよ、誰にも」


 そうこともなげに答えると、いつもスンとしている彼の顔いっぱいに、安堵と喜びの表情が現れて、私はびっくりした。喜色満面のお手本みたいな顔。

「ありがとう。すまない。恩に着る」

 私の手を取って振り回しそうになる彼を制して、いやいやいや、と私は頭を振った。

「今はそういうのをアウティングって言って、セクハラと同じくらい嫌われるんですよ。別に恩に着ていただくほどのことじゃないですって」

 これで仕事で何かミスったときはフォローしてもらえるかもしれない。



 年末が慌ただしく過ぎて年が明けた頃、例の宝石店主催のパーティーが中止になったという噂が流れてきた。

 宝石店は業務縮小となり、雅緋が土日のバイトがなくなったとぼやいていたので、私は彼女にロビーのコーヒーを奢ってやった。

(完)

※挿絵はAIにより作成しました。

※この物語はフィクションです。

紫の研究(前編)

 



 会社の同僚に誘われて、クリスマスの仮装パーティーにメイド服で参加したら、本物のメイドに間違われた。


「ちょっとそこのあなた、このお皿、下げて」

「君、新しいシャンパン持ってきてくれ」


 有名シェフ監修の料理が食べ放題というだけあって、大盛況のパーティーだ。

 ホテルの宴会場が人で埋まっている。

 場内には宝飾類の展示即売会が併設されていて、どうやらお手頃価格のおいしいランチで客を集めて、シャンパンだのワインだので気が大きくなったところで衝動買いしてもらおう、というのが業者側の魂胆らしい。

 商品はすべてガラスケースにおさまっており、立食形式なので客は飲み食いしながら自由に見て回れるようになっている。

 商談したい場合はひとまず飲食物を置いて別室へ通されるシステムらしく、宝石店のスタッフらしい黒スーツに連れられて行く客をちらほら見かけた。


 が、私のような薄給の会社員には縁のない話であるのでそれはどうでもいい。


 問題は、料理や飲み物に気を取られているうちに、そばにいたはずの同僚がいつの間にかいなくなっていたことだ。


 スマホは持ち込み禁止と受付で言われてコートと一緒にクロークに預けたため、連絡手段はない。

 そのうち飲み食いにも飽きてくる。

 仕方ないので壁際に突っ立っていたら、何だか用事を言いつけられまくり始めた。

 これは本物のメイドに間違われているんだなと気づいたけど、いちいち否定するのも面倒なので、言われるまま黙ってグラスや皿を片付けたり、新しいシャンパングラスを運んだり、何か尋ねてくる客を他のスタッフにつなげたり。飽きたら帰ろう、などと思いつつ動いていた。


 子供の頃から、周囲に流されるタイプとよく言われる。


 ちなみに仮装といってもさほど気合いの入った参加者はいない。

 女性はたいてい魔女っぽかったり、某有名テーマパークのプリンセスみたいなドレス。

 男性はスーツにマントを巻いた簡易ドラキュラ伯爵とか、チンピラみたいな海賊とか。

 そして全員、招待状と一緒に送られてきたマスクを着けている。

 目の周りだけ隠すデザインで、色はシンプルな黒。

 私は子供の頃見た某動物アニメを思い出した。

 なんだっけ、怪傑ゾロr……とかいうやつ。


 このパーティーには、一緒に来た同僚の他にも私と同じ会社の人間が何人か参加しているらしいのだが、マスク(と衣装)のせいで誰が誰だかさっぱりわからない。

 来る途中で同僚から得た情報では、参加者の中には、私が苦手な形部(かたべ)係長もいるらしい。


 社内でも有名な、カタブツ形部。


 たしかに仕事はできる。

 頭のキレる人だと思う。

 でも、周囲に厳しくて、誰かが冗談を言っても、いつもスン……と真顔。

 メガネハンサムというのだろうか、容姿はまあまあだし昇進の噂もあるので、狙ってる女子社員がいるらしいけど、浮いた噂も聞かない。

 いつも定時帰り、飲み会も参加しない。

 そのせいかどうか、うちの部署では全員参加の飲み会というものはいつしかなくなってしまった。


 ま、お酒が苦手な私には、ありがたいことではある。


 さて、そんなこんなではぐれた同僚を目で探しながら、言われるままあちらで空いた皿を下げ、こちらでグラスにシャンパンを足し、などなど、もはや本物のメイドとして時給をもらってもいいんじゃないかと思えるくらい動いていたら、さすがに小腹が空いてきた。

 客なんだから遠慮はいらぬとばかり、料理を小皿に取って食べていると、少し年かさの魔女が私に言った。

「あなた、食事なら控室でお取りなさいな。お客の料理をつまむなんて、怒られるわよ」

 パーティー参加者は全員、肩の目立つところにオレンジ色のリボンをつけている。

 私ももちろんつけているのだが、どうやらリボンは彼女の目に入っていないらしい。

 どう返答したものか、私が曖昧に

「はあ……」

 と答えると、魔女は気分を害した様子で、さらに何か言おうと口を開いた。

 と、そのとき。


「彼女はパーティーの参加者ですよ」


 男性の声が言った。

 振り返ると、メガネをかけたインテリヤクザみたいな海賊がいた。

 なんとなく見覚えのあるフレームなしメガネ。

「肩にリボンがあるでしょう」

 そう言われた魔女は私の肩を改めて見て、

「あ、あらほんと!ごめんなさい、あなたが紛らわしい格好しているものだから……」

 などと、ちょっとバツが悪そうに笑いながらそそくさと立ち去って行った。

「ありがとうございます」

 助けてもらったので礼を言うと、

「君ももう少しはっきりと、自分はお客ですと主張したまえ」

 お小言を頂戴した。


 この声、口調、どこかで……?


「あの、もしかして」

 形部係長ですか、と言いかけたそのとき、


「ミナト!」


 という声がして、なんだかキラキラしたものがこちらへ近づいてくるのが見えた。

 肩より上で切りそろえた真っ直ぐな黒髪の耳元に大ぶりのイヤリング。

 アングルカットの前髪がおしゃれだ。

 キラキラして見えるのは、着ている紫のドレスに散りばめられたラメのせいだろう。

 だけど。


 紫色のドレスを着た……女?


 いや、違う。

 身体の線がばっちり出るドレスの胸元を押し上げているのは、どう見ても大胸筋だった。

 身長は、190センチ近くあるだろうか。

 ノースリーブの肩に盛り上がる上腕二頭筋と、長いスカートの前部分に開いた大きなスリットから歩くたび見え隠れする立派な下腿三頭筋。

 ちなみに腕も脚もツルツルだ。

 目元がマスクで覆われているため、詳しい顔立ちはわからないけれど、がっしりした鼻筋と顎、そして極めつけは喉仏だった。


 間違いなく男だ。とりあえず、見た目は。


 何の仮装なのか、そもそも仮装なのかどうかすらわからないが、彼(というべきだろう、たぶん)のドレスが照明を浴びて放つ輝きのみならず、その全身から漂う迫力に気押されたのだろう、彼の進行方向に沿って人垣が左右に分かれる様は、見ていて壮観だった。

 紅海を渡るモーセもかくや。

 彼は形部係長らしき人物につかつかと歩み寄ると、


「あんた、今日は一応アタシのエスコート役なんだから、勝手にどこか行っちゃうのやめてよね」


 と、子どもに注意するような口調で言ってから、こちらを見た。

 ほんの一瞬、私の肩のリボンに視線を止めてから、にっこり。小さい子供が見たら泣くんじゃないか。

「こんにちは」

 紫ドレス男は私に向かって言った。

「かわいいメイド服ね。自前なの?」

「いえ、会社の同僚から借りたんです」

 私は正直に答えた。

「このパーティーもその人と一緒に来てたんですが、はぐれちゃって」


 私は彼ら二人の関係性が気になりすぎて、思わず尋ねた。


「お二人は、お友達どうしですか?」

「いいえ、兄弟なのよ」

「アキラ!」

 紫ドレス男が即答する横で、係長らしき人物が慌てて遮ったが、もう遅い。

「大きな声出さないでよ、みっともない」

 アキラという名前らしい紫男は憮然として言った。

「あとその名前で呼ばないで。私はシオンよ、シ・オ・ン」

 噛んで含めるようにそう言われて、係長らしき男、ミナトは苦い顔になり、何やらブツブツ言いながら引き下がる。


 私は俄然この二人に興味が湧いてしまった。


 あのカタブツ形部にこんな強烈な兄弟がいる(かもしれない)のだ。面白すぎる。

 私はなんとかして(主にインテリ海賊が係長だという確証を掴むために)彼らともう少し話をしたいと思ったのだが、どういうわけか紫男のほうも私に興味津々らしく、幸いにもというべきか、我々の会話は続いた。


「このパーティーには何度かいらしてるんですか?」

 と私が尋ねると、

「いいえ、初めてなのよ。ずいぶん盛況なのね」

 あなたは?と訊かれて、私は自分もこのパーティーは初めてだと答えた。

「訊いてもいいかしら?はぐれた同僚の方って、男性?」

 私は頭を振った。

「女性です。私と同年くらいの」

「親しいの?」

 私は再度、頭を振る。

「全然。彼女がビュッフェパーティーのチケットが余ってるから行かないかって言うから来ただけです」

 すると、今まで仏頂面で黙り込んでいた係長(仮)がぼそっと言った。

「親しくない相手と一緒にメシを食ってもうまくなかろう」

「うまいまずいの問題じゃありませんよ」

 私はちょっとムッとして言い返す。

「おごりで、しかもビュッフェなら、二食分くらい余裕で食費が浮くじゃないですか。ま、都会で一人暮らしする私みたいな貧乏社畜の気持ちなんて、懐に余裕のある形部係長にはご理解いただけないでしょうけれど」


 沈黙。


 ……あれ?私、今、「形部係長」って言っちゃった……?


 相手の顔色をうかがうと、係長(仮)と目が合った。

 彼は、この世の終わりみたいな真っ青な顔で私を見ていた。


 結論。


 私が係長(仮)と心で呼んでいた男は、本当に形部係長こと形部湊(みなと)だった。

 一緒にいる紫ドレス男は彼の弟、形部洸(あきら)。

 紫男と私が互いに自己紹介しているあいだも、係長はずっと渋い顔を崩さなかった。

 よほどこのエキセントリックな兄弟のことを会社の人間に知られたくなかったのだろう。

 形部弟は、自分を西蓮寺紫音(さいれんじしおん)と呼べと言った。

 西蓮寺は母方の名字らしいが、なぜそんな通称名を名乗っているのかについては、聞きそびれた。

 宝石商の黒服が、私たち――というよりは形部兄弟に声をかけてきたからだ。


「お客様、よろしければ商品をご覧になりませんか」

 インプラントでもしてるのかと思うほど白い歯が眩しい。

「ご希望の商品のお取り寄せもできますよ」


 すると、形部弟が言った。

「ありがとう。じゃあ、パープル・ヘイズはあるかしら」


後編はこちら

2024年12月8日日曜日

紅蓮の禁呪153話「竜と龍・十」

 


 法円を守る「壁」が復活した、まさにそのとき。

 漆黒の巨竜が再び天に向かって吠えた。

 竜の背びれは今や不気味な輝きに満ち、魚じみた青白い棘子の連なりを薄闇にくっきりと浮かび上がらせている。

 棘子の先端から激しい火花が散った、次の瞬間。

 先と同じ、凄まじい稲妻が、薄明の空を青白く照らした。


 それは本当に一瞬の出来事で、誰も再度の雷撃を覚悟する暇さえなかった。

 地鳴りのように辺りを震撼させて、耳を聾する雷鳴がとどろく。


 だが――


 龍垓の雷撃が「壁」を直撃することはなかった。


 なぜなら。


 突然、まばゆいほどの青い光と金色の稲妻が、闇を纏った青白い雷撃を弾いたからだ。

 目も眩む光が収まったあと、そこにいたのは、もう一体の巨竜。


 紺碧に輝く鱗を持ち、黄金のたてがみと雷槌をまとったそれは、薄墨の世界を鮮やかに切り裂く、一筋の青い光だった。


 己の前に立ちはだかる紺碧の竜に、黒珠の巨竜はしかし、怯むことすらなかった。


 むしろ己より一回り小さな相手を嘲笑うかのように鼻から青白い鬼火を吐くや否や、その牙を剥いて襲いかかり――


 二頭の巨竜による死闘が始まった。


 その姿はあたかも薄明の空に出現した光と闇の巨大な二重らせんのようで、青白い稲妻と黄金の稲妻が交錯し、ぶつかり合う。

 その断続的な咆哮と雷鳴は、この薄明の世界のみならず、地上に広がる無人の首都のビル群をも震わせた。


 一方。

 迦陵の相手を続けている泰蔵は、この世の超自然の力すべてをその身に集めて戦う弟子を視界の端で捉えては、面映ゆいような気分を味わっていた。


 まったくお前は大した弟子だよ――


 そう苦笑したそのとき、「引き伸ばしていた」時間が終わり、死神の鎌が目の前をかすめた。

 泰蔵は一人ではなく、二体の式鬼を伴っている上に、二秒間だけとはいえ、一秒を五倍に引き伸ばして行動できる。

 あの迦陵といえど、禁術の起動まで抑えておくなど造作もないはず――そう思われた。


 ところが驚くべきことに、迦陵は彼らとほぼ対等の動きを見せた。


 戦うほど、迦陵の纏う黒衣に、顔に、細かな裂傷が増えていく。

 けれど、少なくとも、二度と胴体から首が離れるような失態を犯すことはない。

 泰蔵たちが時間を「引き伸ばして」いるとき、迦陵はひたすら防御に徹した。

 普通の人間なら見極めようのない彼らの動きを、この黒珠の死神は恐るべき動体視力でもって見抜き、その攻撃を紙一重で躱したのである。


 そして二秒後、彼らが通常時間に戻るタイミングを狙い、一撃必殺の攻撃を仕掛けてくる。


 その手堅い戦法に、泰蔵は敵ながら舌を巻いた。

 と同時に、このまま戦いが長引き、疲れて万が一にもミスをしたら――といういやな想像が脳裏をよぎった。

 気を抜けば、今度はこちらの首が、胴体から離れることになるだろう。


 かてて加えて、巨竜たちの足元というこの場所もまた、泰蔵の神経をすり減らす原因だった。

 巨竜たちの姿は実体ではないから、踏み潰されることはない。


 とはいえ、もしも雷撃の巻き添えを食らえば、最悪、死が待っている。


 無論それは泰蔵に限った話で、迦陵には関係がない。

 たとえ直撃を受けて黒焦げになっても、この黒珠の死神は時間さえ許せば復活するだろう。

 実際のところ、泰蔵や式鬼たちによってつけられた迦陵の傷が、驚くほどの速さで元通りになっていくことに、泰蔵は気がついていた。


 黒珠の力が増している。


 そんな確信に、泰蔵はいやな汗が背を伝うのを感じた。

 力を禁術の起動に割く必要がなくなったおかげで、龍垓と迦陵に直接その力が注がれるようになったのだろう。


 この老体が保つ間に、術を起動してくれよ――


 圧倒的な力の気配を放つ龍垓と戦っている竜介のためにも、泰蔵はそう祈らずにはいられなかった。


 

 さて、少し時間を戻そう。

 竜介と泰蔵が法円の外に出て、鷹彦が「壁」を復活させた直後、黄根は紅子に向き直ると、


「紅子」


 と、改まった口調で、しかしてきぱきと言った。


「お前はこれから重大な決断を迫られるだろう。お前はすべてを終わらせねばならない」

 彼は「すべて」という言葉に力を込めた。


「怪物を永遠に葬るため、お前が最善だと思う道を選べ――己の心に従って」


 そうして、彼女の目の前の柱の上で輝いていた黄珠の上に手を一振りしてそれを消すと、彼は紅子の返事を待たずに、くるりと踵を返して法円の辺縁に建つ柱のうち一つへと遠ざかって行った。


 見回すと、他の三本の柱の傍にはすでに玄蔵と白鷺家の二人がそれぞれ立っている。

 志乃武は顔色がよくないものの、まっすぐに前を向いていた。

 彼のバックレザーのムートンコートは、右腕の前腕の途中ですっぱりと斬り落とされ、その血まみれの切り口から突き出たむき出しの腕は、白くて寒そうだ。

 今の紅子は、誰にも説明されなくとも、志乃武の身に何が起きたのか手に取るようにわかった。

 玄蔵は娘と目が合うと、ゆっくりと頷いてみせた。

 おそらく、「大丈夫だ」とか「お前ならできる」と言いたいのだろう。


 不思議だ――と、紅子は思っていた。


 心がとても静かだった。


 魂縒の前に感じていた、様々な感情――不安や緊張だけでなく、舌にまとわりつく血の味や肌の不快感、身近な人々と再会できた喜び、安堵、それに、日可理の姿を見たときの複雑な気持ちにいたるまで、雑然と心を波立たせるものすべてが、きれいに消えていた。


 まるで、磨き上げた鏡面のように、意識が澄んでいる。


 感情がなくなってしまったわけではない。

 「壁」の向こうで起きていることを五感が捉えるたびに、心は相変わらずざわつく。

 ただ、そのことに囚われたままにはならない。


 彼女は今、自己というものを完璧に制御していた。


 魂縒を受ける前、なぜあれほどまでに自分の脳裏は雑念にまみれていたのだろう、なぜつまらない雑念にいちいち心を揺らしていたのだろう、と心中で首を傾げるほどに。


 それと、もう一つ。


 これまで自分を何度か救ってくれた「力の化身」のようなものの存在を、彼女は今、はっきりと意識できるようになっていた。

 魂縒の後の昏睡が思いのほか短く――というより、一瞬で終わったのは、黒珠に支配されて自我のない状態が長く続いたため、無意識下でこの「力の化身」との同化が進んでいたおかげらしい。

 ともかくも、今すぐに再度禁術を起動できる状態であることを、紅子は素直によかったと思った。


 禁術の再起動が、一筋縄ではいかないとわかるまでは。



※挿絵はAI生成です。

2024年11月19日火曜日

紅蓮の禁呪152話「竜と龍・九」

 玄蔵は抗弁した。

「しかし黄根さん、魂縒のあとには昏睡があります。第一、今の紅子の身体は普通の状態じゃ……」

 ところが、当の紅子はいつの間にかすっくと立ち上がっている。


「紅子?大丈夫なのか?」


 ついさっきまでふらついていたのにと訝しみながら玄蔵は声をかけるが、彼女は焦点の合わない目で前を見たまま、返事もしない。

 ただ引き寄せられるように紅子が黄珠に歩み寄る。

 玄蔵はもう一度紅子を呼ぼうとしたそのとき――


 凄まじい金色の光輝が辺りを満たした。


 閉じたまぶた越しに目を射る、あふれる光。

 その場にいた誰もが、あまりの眩しさに耐えきれず、目を閉じ顔をそむけたり手で光を遮ったが、それは文字通りほんの瞬きの間の幻のように過ぎ去った。


 紅子の様子が気になっていたものの、今の自分にできることをしなければと、眼前で復活しつつある龍垓と迦陵に意識を集中していた鷹彦も突然の光に驚いて、思わず背後を振り返った。

 だが、そこにはただ、もとの薄明の世界に、弱々しい輝きを放つ黄金の宝玉と、その前に立つ紅子の姿があるだけだった。


 今のは黄珠の……?


 頬に血色が戻ってはいるものの、顎から下を血まみれにした彼女の姿は、お世辞にも「無事」とはいえないし、さらにさっきの光が魂縒だとすれば、あとには呪的昏睡と御珠の力の減衰が待っている。


 だとしたら、ここは一旦退いて、また出直すということになるのか、と鷹彦は思った。


 実際、紅子は目を閉じたままみじろぎしない。

 黄珠の輝きも衰えている。

 彼女の最も近くに控えている玄蔵も、娘がいつ倒れてもいいように身構えているようだし、竜介と、彼に傷を癒やしてもらった志乃武、それに付き添っていた泰蔵・日可理も、心配そうに成り行きを見守っていた。


 しかし、驚いたことにまもなく黄珠は輝きを取り戻し――


 紅子の閉じていたまぶたが、開いた。


 それは、実に四千年ものあいだ、彼ら御珠の一族が切望し続けた瞬間だった。


 五つの御珠すべての力を授かる神女がこの世に現れたのだ。



 その場の誰もが、目の前の奇跡に言葉を失っていた。

 だが――そう、これで終わりではない。

 彼らにはまだ片付けねばならない勤めが残っていた。


 禁術起動という、命を賭した勤めが。


 そして、その時までは、もう一刻の猶予も残ってはいなかった。

 巨大な生き物の咆哮を思わせる、地鳴りのような轟音が周囲を震撼させたかと思うと、青白い鬼火のような稲妻が、彼らの周囲を取り巻いたのは、そのときだった。

 日可理が悲鳴をあげ、思わず耳を塞いで身体を低くする。

 残る七人も、何事かと身を固くした。

 通常なら目に見えない、鷹彦の造った超高密度の「風撃の壁」が、一瞬、青白いドーム状に浮かび上がる。

 生臭いオゾン臭が鼻を突き、静電気が彼ら八人の髪を逆立てた。


 稲妻が消えたとき、「壁」の向こうに浮かび上がったのは、巨大な竜だった。

 硬質な漆黒の鱗に青白い稲光をまとったその竜は、巨大な蛇体をくねらせて彼らのいる円形舞台の周囲にとぐろを巻き、大きく裂けた口からまた一つ、咆哮した。

 空気が、ビリビリと震える。


「鷹彦、大丈夫か!?」


 竜介が叫ぶと、


「今のところはね!」

 という返事が来た。

「けど、あと二回、今みたいな直撃をくらったらわかんねえ!」


「あの怪物は、今までどこにいたんだ?」


 玄蔵が誰にともなくつぶやくと、それを聞きとがめた黄根が答えた。


「あれは龍垓だ」


 確かに、迦陵はさきほどと同じ場所にいるが、隣にあったはずの龍垓の姿は消えている。

 そして巨大な竜から感じる、圧倒的な力の気配は、龍垓のものと同じだ。


 雷迎術、という言葉が皆の脳裏をよぎった。


 迦陵はすでに首が元通りになって、目に見えない「壁」に向かって何度か斬りつけたものの、文字通り刃が立たないとわかった今は間合いを取って様子を見ているようだ。

 一方、龍垓――もとい、彼だった竜のほうは、空に向かって巨大な口を開け、まるで辺りにわだかまる闇を吸い込んでいるように見えた。

 おそらく、次の雷撃のために力を溜めているのだろう、その鱗と背びれには不気味な青白い光が脈打ち、少しずつだがその輝きは増してきていた。


「時間がない。坊主」


 黄根が鷹彦に向かって早口で言った。


「一瞬だけ壁を消せ。お前の兄と師匠を外に出す」


 わかりました、と答える鷹彦の声を聞きながら、紅子が竜介を目で探していると、すぐとなりで声が聞こえた。


「紅子ちゃん」


「竜介」

 紅子が少し驚きながら向き直ると、彼は少しだけはにかむように微笑み、言った。

「俺、あとできみに話したいことがあるんだ」

 その言葉に、鷹彦の

「竜兄、師匠、カウントスリーで消すから出て!」

 という声がかぶる。

「三!」

「うん」

 紅子は強くうなずく。

「二!」

「うん、あたしも」

「一!」

 竜介は頷き返すと、彼女から視線をはずした。

 脳裏をよぎる「今生の別れ」、という言葉を振り払いながら、泰蔵とともに円形舞台の縁へ向かう。


 ゼロ、の声とともに周囲の景色の暗色が、心持ち深くなったようだった。


 「壁」が消えたのだ。


 そのとたん、タイミングを図っていたらしい迦陵が、間髪入れず竜介たちの間合いに入ってきた。

 彼らが押されて後退すれば、迦陵を「壁」の内側に入れてしまうことになる。

 だが、


 キィン!


 という硬質な音が薄明の世界に響き渡り、青い火花が散った。

 泰蔵が喚び出した、日可理の式鬼氷華(ひょうか)と雪華(せっか)の剣が、迦陵の刃を受け止めた音だ。

 続けて、竜介の隣にいた泰蔵の姿が消えたと思った、次の瞬間。


 迦陵の小さな身体が後ろ向きに吹き飛び、まるで入れ替わるように泰蔵の姿が現れた。


 竜介たちの背後の空中に、かすかなモアレ模様が現れたのは、そのときだった。

 「壁」が無事に復活した印だった。



(※挿絵はAIにより作成しました)

2024年10月28日月曜日

紅蓮の禁呪151話「竜と龍・八」

 


 そのときの紅子の身体は、口内の粘つく血の味や、曰く言い難い疲労感、冷えて重い手足といった不快な感覚が警鐘を鳴らしていた。

 けれど、貧血のせいでまだ意識が朦朧としていたため、それらをなんとなく疑問に思いつつもどこか夢見心地でやり過ごし、竜介の肩に自分の額を預けて、切望した再会の喜びに浸っていた。――の、だが。


 ゴホン、という遠慮がちな咳払いとともに、紅子にとってなじみ深い声が言った。


「あ~……二人とも邪魔してすまんが、そろそろいいかね?」


 聞き間違えるはずもない、父親の声。

 紅子がハッと目を開けると、竜介の肩のむこう、所在なさげにたたずむ玄蔵の姿が飛び込んできた。


「とっ、父さん!?」


 思わず声が裏返る。

 と同時に、全身の感覚が目覚めて現実がその輪郭を取り戻し、紅子は弾かれたように竜介から離れて立ち上がった――つもりだったが、目の前が不意に暗くなり、よろけて結局、二人に両側から支えられる形になってしまった。

 紅子はいたたまれなさと気まずさで変な汗が出てくるのを感じながら尋ねた。

「あの、その、なんでここに?」


「なんでって、お前を助けに来たに決まってるだろう」


 玄蔵は憮然として答える。

 紅子はようやくはっきりしてきた頭で、今自分がどこにいるのかを思い返した。

 いくら竜介でも単独でここに来れるはずがないのだ――この、空に浮かぶ邪悪な亡者の城までは。

 だとしたら、他にも同行者がいるのだろうか?

 ちょうどそのとき、


「小僧」


 今度は紅子が知らない声が聞こえた。

 竜介が振り返った先を見ると、険しい顔に蓬髪の老人が、今まで気づかなかったのが不思議なくらいすぐそばに立っていた。

 知らない顔だが、どことなく見覚えがあるような気もする。

 そんな紅子の視線を尻目に、老人は頭を倒して自分の背後を示して言った。


「白鷺家のせがれが限界だ。早く行ってやれ」


 そこには泰蔵と、白鷺家の二人がいた。


 彼ら冷たい床の上に座りこみ、泰蔵が青白い顔でぐったりしている志乃武の体重を支え、日可理はその傍らで弟の右前腕を白く輝く両手でじっと固定しているようだ。

 光の中に浮かび上がるその腕はむき出しで、血まみれだった。


「そうでしたね」

 と竜介は言って、玄蔵に紅子を預けて立ち上がると同時に、自分が着ていたファー付きの分厚いモッズコートを脱いで彼女の肩にかけた。


「またあとで、紅子ちゃん」


 そう言い残して彼は彼女のそばを離れ、泰蔵たちのほうへ向かった。

 泰蔵と日可理は彼の姿を認めると、ほっとした様子で頬を緩めた。


 紅子はこのときようやく、自分がいるのは直径数十メートルほどの円形に平たく削り出された一枚の岩盤の上だということに気づいた。

 岩盤は冷たい光沢を放つ黒い岩で、滑らかに磨き上げられた床には、繊細な幾何学模様が掘られているのが、薄明の中でもうっすらとわかる。


 竜介の青い光が志乃武の右腕を包み、紙のようだった志乃武の頬に少しずつだが血の気が戻っていくのが見えると、紅子もまた安堵の息をついた。

 安心すると、いつまでも父親に抱えられているのが気恥ずかしくなり、

「父さん、もう大丈夫だから」

 と、離れようとしたが、立ち上がろうとするとまた立ち眩みに襲われて座り込んでしまった。

「無理するな。お前は死にかけたんだぞ」

 そんな大げさな、と紅子は一笑に付しかけたが、胸のあたりがごわごわするのが気になって触れると、手のひらにべっとりと血がついてぎょっとなった。

「何、この血!?」

「お前、何も憶えてないのか」

 玄蔵は、紅子が封滅の禁術を起動したが、黒珠の伺候者が術圧のせいか「自壊」して術が失敗したことなど、自分が知っている範囲で娘に語った。

 それから、あの険しい顔つきの老人を手で示して、


「我々がここまで来れたのは、こちらの黄根さんのおかげだ。お前の母方の祖父に当たる人だよ」

 と、言った。

「それに、お前の命が助かったのも、黄根さんが竜介くんに力を貸してくれたからだ」


 紅子は黄根老人を見た。

 この人が――

 目の前の老人の顔が、記憶の片隅にあった、白珠の魂縒で最後に見た幻と重なる。

 黙ってこちらを見ている黄根に、紅子は言った。

「あの、初めまして。色々とお世話になって、ありがとうございます」

 だが、老人は表情を崩すことなく、


「礼を言うのはまだ早いようだぞ」


 と、あごで竜介たちがいるのとは別の方角を示した。


 そこにいたのは、鷹彦だ。

 彼は舞台の縁の近くに立って、こちらに背を向けたまま、青い光を放っている。

 一瞬、彼が何をしているのか理解できず、紅子は彼に声をかけようと息を吸い込む。

 しかし、次の瞬間、鷹彦の放つ青い光輝の向こう側、夕暮れのような薄明の中で、大小二体のシルエットがうごめいているのを目にして、紅子の吸い込んだ息はそのまま固まることになった。


 その二つのシルエットは、龍垓と迦陵のものだ。


 どことなく人間離れした動きだったが、すぐにわかった。

 龍垓は折れ曲がった首から偃月刀を抜くと、両手で首の位置をまっすぐに直そうとしている。

 迦陵にはそもそも首がなかったが、胴体が手探りで首を探し当てたところだった。

 

 全身に冷水を浴びせられたような気がした。


 竜介と再会できただけですべてが大団円を迎えたような気でいたが、まだ何も終わっていなかったのだ。


「動き出したな……」


 黄根が苦々しげにつぶやくのが聞こえた。


「もはや猶予はない。紅子」


 呼ばれて向き直ると、ぎろり、と大きな目で見据えられ、紅子は思わず姿勢を正す。


「は、はい」


「お前には今から、黄珠の魂縒を受けてもらう」


 そう言うと同時に、彼は目の前の饕餮紋が刻まれた角柱――禁術起動中にはそこに炎珠があったが、今は何もない――の上に手をかざす。

 その手が金色に輝き、次の瞬間、角柱の上に黄金に輝く宝玉が現れた。

 説明がなくとも、わかった。


 黄珠だ。



※挿絵はAIによるものです

2024年10月20日日曜日

ロンドン・パリ旅行こぼれ話「トイレ事情」

 


ヨーロッパの公衆トイレは有料だとか、お金をとるわりにきれいじゃないとか、いろいろ噂を聞いて戦々恐々としながら渡欧しましたが、開けてびっくり、公共施設のトイレはどこもおおむねきれいでしかも無料でした。

とくに驚いたのがエアタオルの普及率!

冒頭の写真はディズニーランド・パリ(DLP)の公衆トイレのエアタオル。なんとパーク内全トイレのエアタオルがあのdyson製でした。すごい✨️

ただ、パリのメトロはトイレがどこにあるのかわかりませんでした。もしかして、ないとか…?そういえばCDG空港もトイレが少なかった🤔

それとも、日本の鉄道がトイレ多すぎなのかな?😅

日本の公共施設のトイレって、とても親切ですよね。「水を流すときはここ!」みたいな印が必ずあるし。

ロンドンやパリのトイレはとてもスタイリッシュなんですが、そういう印がどこにもなかったりすることがしばしばありました(尾籠な話ですみません)。水流ボタンが壁に埋もれて、デザインの一部になってたり…😅そこはもう少し実用性を優先してもいいのでは😂

私が行った場所が特別で、もっと田舎だとか、あまり旅行客が行かないような場所だと、もしかしたらまだ昔ながらの有料でしかもあまりきれいじゃない公衆トイレなのかもしれませんが、とりあえずロンドンやパリのメジャーな観光地では、衛生的でほっとしました😄

2024年10月19日土曜日

ロンドン・パリ旅行⑦「帰国」

シャルル・ド・ゴール国際空港へ出発

昨夜はホテルへ戻ったのが夜11時近かったせいか、ホテルのフロントに誰もいなくて自動ドアが開かないなんてことがありました(入口横の呼び鈴を押しまくったらすぐに夜勤のお兄さんが出てきてドアを開けてくれましたが…夕食でも食べてたのか?😅)。そんなゆるーいパリの日々ともついにお別れ。

ロンドンのロイヤルナショナルホテルはカードキーだったので、玄関ホールに設置された箱にカードキーを放り込むだけでチェックアウトOKだったのですが、パリのホテルハバナオペラは昔ながらのシリンダーキー(しかもちょっとした鈍器なみに重い)なので、チェックアウトのときはフロントに鍵を返します。

フロントのおじさんに「Thank you for everything!」とお礼を言って出発。こういう古風な感じもなかなかいいものですね😊

実際のところ、このホテルは日本人に人気があるみたいで、私達以外にも2、3組の日本人客を見かけましたし、エレベーターには各部屋のデポジットボックスについて日本語で説明している紙が貼られています。もしかすると、以前は日本人(あるいは日本語を話せるスタッフ)がおられたのかもしれません…🤔


Cadet駅のアール・ヌーヴォー調の看板ともお別れです。

ところで、今回の旅行ではパリの治安がとにかく懸念材料でした。オリンピックが終わってしばらく経っているとはいえ、やっぱりスリ・置き引きの類は多いだろうし、いきなりナイフを突きつけるような強引なやつに遭遇したらイヤだなぁとか…ぐるぐる考えてました😱

 なので、ネットの情報をもとにスキミング防止の薄型ウェストポーチを買い、クレカなどの出し入れも最低限にしたほうがいいだろうと、出発前、オンラインでメトロの切符を買えるというイル・ド・フランス・アプリ(とナビゴーアプリ。2つは連携しているので、イル・ド・フランスアプリで切符を買うにはナビゴーアプリが必須です)と、交通機関のストなど最悪の場合に備えてタクシーも使えるようUberアプリをスマホにインストールしておきました。

しかし!結果から言うと、いずれのアプリも出番はありませんでした😅

まず、イル・ド・フランスアプリではパリ市内のメトロの切符は買えるけど、MLV Chessyまでの切符が買えませんでした。もしかすると他の交通機関アプリなら買えたかもしれないけど…とにかくパリの交通網についてはアプリがたくさんありすぎてややこしく、「このアプリひとつでオールOK!」というものはないという印象を受けました。

また、Uberも、メトロの雰囲気があまりに悪かったら、Auber駅から使うことがあるかもと思ってましたが、オペラ駅~Cadet駅間はホテルも観光客も多いせいか、メトロの駅も車内も夜11時くらいならまだまだにぎやかでしたし、Cadet駅前も夜遅くまで若い人たちが歌ったり騒ぐ声が聞こえてました(夫が言うには、午前0時ごろ、YMCAを歌う声が聞こえてたとか😂)。

ま、私が終始夫と二人連れだったから、危険を感じなかっただけかもしれません…Auber~オペラ間の地下通路には、路上生活者の姿もちらほらありましたし、自分一人だったら、ちょっと怖いなと思ったかも🤔

さて、話を空港までの移動にもどしましょう。

使える公共交通は2つ。オペラ駅前から出ているCDG空港直通のROISSY(ロワシー)バスか、治安がよろしくない(という噂の)RER B線を使うか。

出発時、私は悩んでいました…イル・ド・フランスアプリでもロワシーバスのチケットは買えるみたいですが、果たしてこれがほんとに正しいのかどうかがわからない(なにせ初心者なので)。バス停にチケット販売機はあるらしいけど、見つけられなかったらどうしよう…😔

溺れるものはメトロの駅のインフォメーションでCDG空港へ行きたいのだがと尋ねました。が!「ロワシーバスで」の一言を忘れたために、鉄路のチケットを購入してしまったのでした…😑もちろん、ロワシーバスの運転手さんには「このチケットでは乗れません」と言われましたとも😭(そしてロワシーバスのチケット販売機はバス停の歩道上にありました…これでもかというくらい見逃しようのない場所に😭)

しょーがないので雨の中(この日も雨天。パリは連日雨)オペラ駅へ取って返し、またもやインフォメーションで、買った切符を見せて「これでCDG空港へ行けるだろうか?行くとしたらどう行けばいいのか?」と尋ねました。

インフォメーションのおじさんは言いました。この切符で大丈夫だ。オペラから一駅のChatelet Les Halles駅(シャトレ・レザール、通称シャトレ)でRER Bに乗り換えなさい、と。

やっぱりチケット代を無駄にしたくないなら、それしかないよね~。

というわけで、RER B線でCDG空港へ向かうことになったわけです…😑

で、問題のB線ですが、A線に比べると駅構内は多少古くて薄暗い感じはしたものの、スーツケースを転がしている旅行客は他にもいるし、車内の雰囲気もごく普通でした。ただ、乗客はA線ほど多くはなくて、空席が多いという印象。でかいスーツケースを持ってる我々には、空いた車内はありがたかったですが、これが夜とかだと、人の少なさはやっぱりちょっと怖いと思ったかもです🤔

パリの鉄道は基本、各停なのですが、私達が乗ったCDG空港行きはどういうわけか途中の駅をかなりすっ飛ばして運行。そして途中、なにもないところで停止。

信号待ちにしては長いな~と思っていると、何やら警察みたいな黒い防弾チョッキを身に着けた物々しい人たちがやってきました。

え、なんか事件?😰

違います。実はパリの鉄道ではときどき抜き打ちでキセル乗車チェックがあるのです。噂には聞いてたけど、まさか自分が遭遇するとは!もちろん、私達のチケットは問題ありませんでした。ただ、同じ車両の前のほうでは、どうやら罰金を払わされているらしい男性の姿がありましたが…😅

たぶん20分くらい停車してたのかな?その後はとくに問題なく、CDG空港に到着しました。で、さらにここから私達が出発する第一ターミナルまでは、空港内をぐるぐる走っているCDGVALという無料シャトル電車で移動。この電車、座席はありません。すぐに着くから、座る間もないけどね。

夫はキセルチェックの停車時間にぷんすか文句を言ってましたが、16時25分の飛行機には十分以上に間に合うことができたので、結果としては鉄路を使ってよかったと私は思いました。悪名高い?B線に乗るという貴重な経験もできたし😂

CDG空港~帰国


行きは有人カウンターでチェックインでしたが、帰りは無人機でチェックイン。出てきた搭乗券はレシートみたいな頼りない感じのペラペラの紙(行きは厚紙だったのに)。搭乗券といっしょに預け入れ荷物に付けるバゲージクレームタグも発券されますので、それを持って荷物を預けに行きます。

パスポートチェックと手荷物チェックが終わったらあとは搭乗までやることないので、空港内のカフェで飲み物だけ頼んでぼーっとしてました😶


コインランドリーのために崩した小銭を使い切るため、カフェで頼んだ飲み物。レモンティーを頼んだはずなのになぜか出てきたピーチティー。美味しかったからまあよし😂

帰宅してからウェストポーチをさらったら、すみっこからイギリスの1シリング硬貨と20ユーロシリング硬貨(0.2ユーロだから30円くらい?)が出てきました。ありゃ…この先使うことあるかなぁ?😅

帰りの飛行機もまたもやヘッドレストとの戦い😓しかもドーハ~関空間の座席はリクライニングが壊れてました。なんたる不運!そんなことある…?😫

ちなみに乗った機種はAirbusA350-900で、CDG~ドーハ間で乗ったBoeing777-300ERより新しい感じだったのに…(Boeing777-300ERは行きも乗りましたが、座席の読書灯が点かなかった😅)

しかたないので座席と背中の間に手荷物のリュックを置いて、クッション代わりに(シートベルトサインが出たときは床に置きました)。

帰りの飛行機では機内モニターで大好きなマーベル映画を見てました。シャン・チーとガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3。GoG3はフライト中に全部見終わることができなかったので、これからディズニー+で続きを見るつもりです😄

機内食は帰りも美味しかった!夫はうなぎが出てご満悦でした😂

そういえば、機内で眠るときのためにアイマスクと耳栓を100円ショップで買っていきましたが、結局使わなかったなぁ🤔同じく100円ショップで買っておいた携帯スリッパはとても役に立ちました。機内でもホテルでも。日本のホテルはたいてい「消毒済み」って書いたスリッパが人数分用意されてますが、あれは日本ならではだったんだ~と思い知りました😅


受託荷物を受け取ったら、税関へ。

私達は関税がかかるようなものは買ったりしてませんでしたが、関空ではないなら「ない」と申請しないと税関を通れないので、黄色い書類を書いて通過。

モバイルWiFiを返却したら、空港での用事は終了です。

空港に着くとその国ならではの匂いがする、という話を聞いたことがありますが、ハマド空港もヒースロー空港も免税店の香水の匂いしかしませんでした😂ただ、関空は、空港の建物に入った瞬間、うどんのようなおだしの匂いがほのかにして、噂は本当だったんだなと思いました😂

時差ボケですが、機内でなるべく眠るようにしていたし、帰国した日も疲れてすぐ就寝したので、あまり感じませんでしたね🤔

ただ、スマホのロック画面に表示される時刻が、日本時間に設定し直したあともなぜかずっとパリ時間だったのは困りました。再起動したら直りましたけど😅

夫は硬水のせいかじんましんに悩まされたりしましたが、二人とも大きく体調を崩すこともなく、大きなトラブルなく旅を終えることができて本当によかったです😄

これにて我が家のロンドン・パリ旅行記は終了。

ここまで読んで下さってありがとうございました!🙏😆

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2024年10月18日金曜日

ロンドン・パリ旅行2024⑥「ディズニーランドパリ二日目!」

 

DLP、二日目です。

出かけるのが遅くて間に合わないかなと思ったのですが、朝11時すぎのディズニースターズ・オン・パレードに間に合いました。

DLPは、日本では絶えて久しい紙マップがまだ残っていて、おかげで公式アプリをインストールしてくるのを忘れた夫は助かったようでした。でも基本、道案内は私がしてましたけどね…😒

公式アプリにはアトラクションを検索すると現在位置からの道順を青いラインで教えてくれるという道案内機能があって、便利でした。混雑してたり通信が弱かったりすると現在位置がズレるので、あまりアテにならないときもありましたけどね😅パーク内にキャストさんが少ないのは、アプリにこの機能があるせいかな?とも思いました🤔


フランス版スモワ。日本のイメージが、「ハリウッドが考える日本」とかじゃなくて、ちゃんと日本だった😂

その後はお隣のウォルト・ディズニー・スタジオへ移動。スタジオには、日本にはないアトラクションやショーがあってとても楽しかったです!😊


映画「レミーのおいしいレストラン」がテーマの4Dアトラクション、「レミーのラタトゥイユアドベンチャー」。私は面白かったけど、夫は元ネタを知らないのでさほど楽しくはなかったみたい。回転したり水しぶきがかかるのが苦手な人は乗らないほうがいいかも。人気のアトラクションなので待ち時間が長いですが、シングルライダーだと5~10分くらいで乗れました。

二人とも文句なく楽しめたのは、トゥーン・スタジオのアニマジック・シアターで上演されている「ミッキー・アンド・ザ・マジシャン」。フランス語や英語がわからなくても、なんとなく雰囲気でストーリーがつかめますが、ネットにあらすじやYoutube動画も上がっているので、予習していくとさらに楽しめるかもしれません😊

個人的には、日本人が独り言で「さあ、仕事、仕事!」とよく言うのと同じように、ミッキーが「Travaille, travaille!」と言いながら掃除してる(ミッキーは掃除夫という設定)のが面白かったです😂

そしてついに、到着したのは…




そう、アベンジャーズ・キャンパス!!😍

いやもうこの景色だけで感無量ですよね~💕アベンジャーズ全然興味なしの夫は、しばし休憩(DLPは屋根があって座って休める場所がたくさんあって助かりました)。私だけで「アベンジャーズ・アッセンブル・フライトフォース」と「スパイダーマン・ウェブアドベンチャー」の2つに乗ってきました。

どちらもシングルライダーで乗りましたが、フライトフォースでは小学生くらいの娘さん二人を連れたパパさんと相席に。とってもフレンドリーなパパさんで、「ボンジュール!」と挨拶してくださり、出発前も「準備大丈夫?」と気遣ってくださいました😄ほっこり✨️

フライトフォースは聞きしにまさるとはこのことかという絶叫マシンで、初手からいきなり急加速で度肝を抜かれました😅アイアンマンとキャプテン・マーベルの会話なんか聴いてる余裕なし!唯一聞き取れたセリフがキャプテンの「Tony, I don't need your help!」だけ😂

ウェブアドベンチャーはそれにくらべるとほのぼのしてましたね。シーのトイ・ストーリー・マニア!と同じ双方向映像系ライドですが、道具はなし。スパイダーマンのウェブシュートをまねたモーションをすると映像の中で暴走するボットが壊れて点数がもらえるという仕組み。いい年した大人がやるのはちょっと小っ恥ずかしいかな~と一瞬思ったんですが、相席した恰幅の良いおじさんは普通にやってました。というか、慣れた感じで、叩き出した点数もすごかったです😂

スタジオではワカンダ・フォーエバーやアベンジャーズ・ユナイト!などのミニショーもあって、ランドとはまた違った楽しみ方ができました。

アントマンがグリーティングに出てくるところも見かけましたが、「コスプレしてる一般人?」と思うくらい周りにキャストさんがいないのもびっくりでしたね😅

ランドにもどって、午後のパレード、ハロウィン・セレブレーションを観覧。



ハロウィン・セレブレーションは城前に4つステージがあって、私はミッキーが来るステージ前をはずしてばかりでした…😓

パレード後は昨日と同じアグラバカフェで夕食、そして夜のショーまで何かアトラクションでも、と思ったのですが、雨が降っていたので、カフェの店先で雨宿りしたりして時間をつぶすことに。

夜のショーはディズニー・エレクトリカル・スカイパレードとディズニー・イルミネーションズの二本立て。2つのショーは連続して上演されます。

小雨のせいでドローンこそ飛びませんでしたが、夜のショーも圧巻でした!


混雑もすごかったですけどね💦帰りのRERもめちゃ混みで、まさに立錐の余地なしでしたが、30代くらいの男性が席をゆずってくれてありがたかったです😊そんなに疲れてみえたのかしらん…笑

当初は眠れるだろうかと心配していたダブルベッドですが、疲れて爆睡状態だとお互いの動きなんて意外と気にならないもので、3晩とも安眠できてよかったです😴

明日はいよいよ帰国だ~

続きます~ヽ(=´▽`=)ノ

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2024年10月17日木曜日

ロンドン・パリ旅行2024⑤「ディズニーランドパリ一日目!」

パリの朝ゴハンとかネット事情

さて、パリで最初の朝食ですが、私達が泊まったホテルハバナオペラ、Googleマップの口コミで朝食について酷評されていたので、あまり期待はしていませんでした。

実際どうだったかというと、ざっとこんな感じ(私が泊まったときのメニューなので、今後変更があるかもしれません)。

食べ物:パン三種(クロワッサン、チョコデニッシュ、プチバゲット)、ゆで卵、フルーツとヨーグルト

(パンのお供はバター、はちみつ、ヌテラのチョコスプレッド、あんずジャムなど)

飲み物:コーヒー、ミルク、オレンジジュース、セルフで淹れる紅茶(茶葉はEnglish Breakfast、レモンフレーバー、ダージリン)、ココア(これも用意されているホットミルクで自分で作る)

ロンドンで泊まったロイヤルナショナルホテルの朝食と比べると見劣りすると言わざるを得ません…が、「家庭的」といえばそうかも。みんな家で食べる朝食ってこんな感じじゃない?ホテルで食べる朝食ビュッフェの非日常性からはちょっと遠いけど、これはこれでありかな、と🤔

個人的に今回のヨーロッパ旅行の朝ゴハンで感動したのは、「必ずココアがある」こと!💕これって海外では当たり前なのかな?

パンはどれもおいしかったし、かの有名なヌテラも初めて食べましたが、これはハマる人いるだろうなという美味しさでした(実際、夫は毎食食べてた😂)。それと、ジャムがいちごやブルーベリーじゃなくあんずだったのも嬉しかったな~😋甘酸っぱくて最高!紅茶・コーヒーも美味しゅうございました。硬水で淹れた紅茶はおいしいと噂には聞いていましたが、確かに味が深くて美味でした。

ただ一つ、ゆで卵が堅ゆでだったのが、半熟派のワタシには不満でしたね…😅

ホテルWiFiですが、ロンドンのロイヤルナショナルホテルについては問題なく使えました。パリのホテルハバナオペラは、ほぼ飛んでないのと同じくらいの弱さ💦1階の朝食レストランにわりと大きめの機械が設置されているのを見かけたので、レストランとその周辺(2階くらい?)の客室ならそこそこ使える、のかな?ちなみに私達の部屋は7階😓ま、モバイルWiFiがあるからいいっちゃいいんですけどね…。


ディズニーランド・パリへ!

朝食を食べたら、DLPへ出発です。

と、その前に、自室の古風なシリンダー鍵をフロントに預け、さらに昨晩、入浴中に風呂の排水栓が閉まったまま戻らなくなった旨を告げ、私達の留守中に直しておいてもらえないだろうかと頼んでおきました。古いホテルではわりとあることらしいのですが…😱、修理に別料金を請求されることもあるらしいし、部屋も別室に移動になるかもな~と憂いながらの出発でした。

パークの最寄りはRER A線の終点、Marne-La-Vallee Chessy(マルネラヴァレ・シェシー)駅です。舌をかみそう😂

ホテルまで来るときも使ったメトロ7番線でオペラ駅へ移動、地下道でRER A線のAuber(オベール)駅へ徒歩移動してMLV Chessy行きに乗り換えます。券売機には「Tickets for MLV Chessy Disney(ミッキーマーク付き)」とあるのですごくわかりやすいです😀

ホテルからパークまではおよそ1時間…遠い😑でもホテル選べないツアーだったから仕方ない😑RERはメトロと違って地上も走るから、外の景色を楽しめるのがよかったです。それに、A線はダブルデッカー(2階がある車両)なので、2階席からの景色を見ていたら、移動もあっという間でした😊

パークに着いたら、お約束の手荷物検査。


あいにくの曇り空。パリの秋は雨が多いそうで、この日も夜から雨でした☔

手荷物検査が終わったら、ゲートが正面と右に別れていて、正面がウォルト・ディズニー・スタジオパーク、右手にディズニーランドパークのゲートがあります。


ハロウィンカラーのミッキー花壇。奥に見えている建物はパリのランドホテルで、この建物をくぐるとパークゲートになっています。

Kloo◯で予約したチケット、私は念のため紙に印刷して持って行ったのですが、問題なく入場できました!😀💕

ちなみにチケットのQRコードは二日間通して1つだけ。ランドとスタジオを行き来するときも使うので(日本と違って再入園スタンプなし)とっても大事。私はQRコードは印刷のほか、GoogleドライブやLINEのkeepメモにもバックアップ取ってました😎

ところで、実はこのKloo◯のチケットを買ったとき、サービスでヨーロッパで使えるeSIM(データのみ)3ギガを無料でもらってて、ホテル出発前にアクティベートして使えるようにしてありました。

モバイルWiFiは二人一緒に行動するときはいいですが、パークみたいにパレードの場所探しなどで別々に行動するときは少し困ることがあるかも、と思ったので、使うならこの日から!と決めていたのです。

eSIM、使ったことある方はご存知でしょうが、私は初めてだったのでドキドキでした😅

有効にすると、スマホ画面のふだん通信キャリアの社名(AUとかNTTとか)が表示されている場所に、見慣れない「F SFR」という文字が。どうやらフランスのMVNOの回線を使ってるみたい。使ってみた印象は、率直に言うと、「ないよりマシ」って感じかな…😂ま、パークみたいな人の多い場所では、日本でも繋がりにくくなるから致し方なしですよね。

そして驚いたのは、DLPには公式の無料WiFiが飛んでいる!ということです。これも日本とは違うところ。日本のパークにもWiFiほしいよね…サーバがパンクしそうだけど😂

日本と違うところは他にもいろいろありました。

エントリーもスタンバイパスもなし。ウソだと思うなら、DLPの公式アプリをインストールしてみてください(日本でもインストールできるので)😂DPAみたいな有料の時短パスやショーパレの有料観覧チケットなどはあります。

人気の屋内ショー、並ぶだけで普通に観覧できるなんて…嬉しすぎる!🥹

キャストさんいない。探さないといない😅パレードになるとどこからともなく現れるけど、基本、パレードルートの見回りだけしてすぐいなくなります😂

屋外ショーパレはすべて基本立ち見。座り見できるのは座席がある屋内ショーだけで、座って場所取りしてるとパレードルートの見回りに来たキャストさんに「立って!」と言われます。なのでちびっこの肩車多し。あと、背が低い我々アジア系は不利😭スマホやカメラを頭より上でも撮影OKなのがせめてもの救い…かな?

DLPのお城は、シンデレラ城ではなくSleeping Beautyのお城。くるくる回るハロウィンのデコレーションがおもしろいので、動画にしました(※音が出ます)。


ショーパレがすごく派手。DLPは通路の幅が狭く、最前だとカメラの画角に入り切らないくらい、ほんとにすぐ目の前(2、3メートルくらい)をパレードのフロートが通りますが、ご覧のようにドラゴンが火を吹いたりします!🔥エキサイティング!✨️

日本とは消防法が違うのでしょうね~…ちょっとうらやましいような気もします。ショーでも至近距離でパイロ(花火)がガンガン上がるので、その爆発音でちびっこが怖がって泣き出すレベルでした💦

この日はスタジオパークのほうへは行かず、ずっとランドにいて、写真撮りまくり😂

お腹が減ったのでどこかで軽食でも…と思ったのですが、フードスタンドで売られているちょっとした軽食でさえ11ユーロ以上する!😰

なので、予約よりかなり早い時間(午後4時半くらい)でしたが、夕食の予約を入れていたアグラバカフェへ行きました。

アグラバカフェは、ビュッフェスタイルで主に中東料理を供しているお店。雰囲気はシーのカスバ・フードコートみたいな感じですが、お値段はワンドリンク付きで40ユーロ!高!😭

でも中途半端に軽食で40ユーロ使ってしまうよりはいいよね、ということで予約を入れておいたのでした。

「予約より早いけど…」と公式アプリの予約画面を見せたら、問題なく入店できました😊

飲み物はコーラ(またはダイエットコーク)、オレンジジュース、アップルジュースから選べます。水は無料で持ってきてくれます。ドリンクバーがないのも日本とは違うところ。

メニューは謎な味のスープやしょっぱい豆のフムスなどを除くと、ヘルシーでおおむね美味しかったです。夫は特にピラフを気に入ってました。日本米とは明らかに違う種類のお米でしたが、とにかく米なのがありがたかったみたい😂私はローストラムが気に入りました💕そしてデザートはどれも最高!😋

さて、店を出ると雨がけっこう強く降り出していました。

DLPは午後のハロウィンパレードを小雨の中決行しましたが、夜の城前プロジェクションマッピングは果たしてこの雨で決行されるのか…☔

迷いましたが、この雨ではドローンも飛ばせないだろうしと諦めてホテルに戻ることにしました。何より、雨に濡れたせいで風邪でも引いたらしゃれになりません。

パークを出る前、夫が職場に持っていくお土産(バラマキ用)をお土産屋さんで探しましたが、個装菓子というものはほとんどありませんでした(あっても1、2種類)😅どうやら欧米にはバラマキ菓子という習慣がないせいらしい。

夜のCadet駅前は開いているお店も人通りもまだまだ多くて、私と夫は駅前の小さなスーパーでも、日本へのおみやげになるお菓子はないかなと見て回ったりしました。

そしたら、雨でお客がほかにいなかったせいか、店員さんから「もう店閉めるから、買うなら早くして!」と言われてびっくりΣ(゚Д゚)

まだ夜の8時くらいなんですけど…そしてネットには「閉店9時」って書いてあるんですけど!?😂

これも海外ならではか、と思いながら、見つけた個装マドレーヌのパックと巨大なマフィンの4個パック(自宅用)を買ってホテルへ戻り、その日は終了しました。

あ、風呂の水栓は直ってましたよ!追加料金などもありませんでした💕

よかった~ε-(´∀`*)ホッ

続きます~ヽ(=´▽`=)ノ

④へもどる

2024年10月16日水曜日

ロンドン・パリ旅行2024④「パリへ移動」

 ユーロスターでパリへ

ロンドンで最後の朝食へ行く途中、ホテルの会議場?前にあった看板↓


どうやら今日はコミケ的なイベントがこのホテルである模様。私と夫が興味津々で看板を眺めていたら、受付の女の子がニコニコしてこっちを見ていました。

立ち寄りたい…!!😂

でもそんなことしてたらユーロスターに間に合わない!なので、後ろ髪を引かれつつ、朝食を食べたあとは自室へもどって出発準備をしました。

この日、私達が乗る予定のユーロスターの出発時刻は午後12時31分。ですが、チケットの注意事項によると、チェックインは出発の20分前で終了するのだそうで、私達は朝10時すぎくらいにホテルを出発し、セントパンクラス・インターナショナル駅へ。


駅へ行く途中、夫が撮影した「これぞロンドン」って感じの写真😁

結果としては時間を余らせることになりましたが、それでも早めに着いておいて正解でした。鉄道とはいえ、国境をまたぐので、パスポートチェックはもちろん、手荷物検査もかなり厳重で、時間がかかりました。

私は手荷物も金属探知機も引っかからなかったけど、なぜか手首周りをやたら丁寧に調べられました。シャツで隠れてたからかな?服の上からボディチェックを受けているお客さんもいました。

ゲート周辺には、明らかに武装してる警察官が仏頂面で立ってたり、すごく物々しかったです。おっかなかったなぁ…😨

待合室はめちゃ混みで、お土産屋さんのほかに軽食コーナーもあり、いい匂いが漂って楽しそうな音楽がかかってました。そして飛び交う色んな国の言葉😄

ユーロスターは車両に入ってすぐに大型荷物用の棚があるので、スーツケースをそこに置いて指定された座席へ。リクライニングはなし。それはまあいいんですが、なぜか進行方向と逆を向いている…😅

座席の向きを変えることもできるようですが、そうすると前の席の人たちと向かい合わせになってしまう。それはちょっと気まずいし、他の人たちは気にせずそのまま座ってるようなので、私達もそのままで行くことにしました。

うーむ、進行方向に合わせて座席を自動でセットし直してくれる新幹線って、とっても親切だったんですねえ😅

駅構内もそうですが、ユーロスターの車内もWiFiが飛んでました。ただ、Googleマップで自分の現在地をバッチリ表示できるほど強くはなかったです。車内が混雑しているせいもあるかも?

ドーバー海峡を渡るときはもちろんトンネルの中なので、海は見えません。ながーいトンネルをくぐったら、そこはもうフランス(でも風景はあんまり変わらない…畑ばかりで北海道みたい)。


花の都で迷子

3時間あまりの列車の旅を終え、着いたパリは雨☔でした…😭

到着駅であるガレドノルド(北駅、という意味)から、今夜のお宿であるホテルハバナオペラまでは、Google先生によると徒歩15分らしいのですが、雨の中、徒歩はちょっとな~、ということでメトロで移動することに。

しかし、ホテル最寄り駅であるCadet駅までの行き方がわからなーい。駅のインフォメーションで、北駅からはメトロ5番線でガレドレスト(東駅)へ移動、そこでメトロ7番線に乗り換えればCadetへ行けると教えてもらいました。

ちなみにメトロの切符はクレカのタッチ決済で普通に買えました(最初、カードを差し込んで、暗証番号を打ち込んで…ってやったらエラーになったのに、タッチに変えたら一発OK。なぜ…)。

さて、そういうわけで東駅に着いた私達でしたが、今度はメトロ7番線の場所がわからない!😱仕方ないのでその場を通りかかった私達と同年代くらいの気の良さそうな御夫婦に声をかけ、7番線はどう行ったらいいのか尋ねたところ、乗り場まで案内してもらえました✨️

ありがとうございます!🙏

今回の旅はこういった人情に助けられることがほんとに多くて、私も帰国したら外国人観光客には親切にしよう…と思ったことでした😌


部屋とコインランドリーと私

さて、雨の中、やっとたどり着いたホテルハバナオペラ。ラファイエット通りから少し奥にある、7階建て(日本式の計算で)のこじんまりとしたアットホームな雰囲気のホテルです。

そしてエレベーターが独特。


これ、エレベーターのドアなんです。手動です。

どうやって開けると思います?実は左側のノブを手前に引くんです😂ちなみに定員は3名。スーツケースを持ってたら、二人でもみっちみち。

そして部屋。私達は事前にバスタブ付きの禁煙ルームで二人部屋(ツインベッド)でお願いしていたのですが、フロントのおねえさんが言うには、希望通りの部屋だけど、「No shower」だと言われました。

シャワーがないってこと?漂う不安…(;´∀`)

まあバスタブさえあればなんとかなるさと部屋に行ってみたところ、広いバスルームにバスタブが…あれ?シャワーもある。

ただ、シャワーカーテンがない…😅

そんなことある…?

シャワーまともに使ったら浴室水浸しやん😂おねえさんの「No shower」は、「シャワーがない」じゃなく、「シャワー使わないで」ってことだったんだねえ…😅

あとこのバスタブ、水栓が閉まらないので、お湯が溜められないんですけど…😅

さらにベッドも問題。ツインだと思ってたらダブルでした😓

我が家は徹底的にツイン派で、寝返り打ったり、夜中トイレに行ったりしたとき、お互いの眠りを妨げることにならないか気になるんですよね。

コインランドリーへ行くついでに、フロントのおねえさんにバスタブつきのツインの部屋はないのか尋ねたところ、「ない」との返事でした…仕方ない😔

ちなみにこのホテルでは、快く10ユーロ札を小銭に両替してくれました。ありがとう!🙏

でも、行ったコインランドリー、クレカのタッチ決済対応してた…😂

そして、またもや使い方がわからない…ので、店内で自分の洗濯が終わるのを待ってる見知らぬおばさん(店員さんではない)に、使い方を尋ねました。

めっちゃ親切に教えてくれました…!🙏✨️

あと、店内に置かれている椅子に夫が座ろうとしたら、「それ、壊れてるから座らないほうがいいよ」って教えてくれたり、フランス人、優しい…!🙏✨️🥹

実際に来てみるまでは、「英語で話しかけて無視されたらどうしよう」とか思ってたけど、まさに杞憂でした。みんな普通に親切!💕

そしてコインランドリーの仕上がりも、イギリスと同じしっとり感😅部屋にもどってハンガー(なぜかいっぱいあった)にかけたりして干したあと、夕食を食べに出かけました。

夕食はマクドに行ってみることに。パリのマクドは普通に座席があったので。

しかし…まず注文までたどりつくのが大変でした。なぜなら、液晶パネルからセルフオーダーするのに、レジに持っていく注文票が出てこない

たぶん、印刷用のロールペーパーがなくなってるのを放置してるんでしょうね。オーダーやめて帰っちゃう人、絶対いると思うけど、だれも気にしないのかな?気にしないんだろうなぁ~、ちょっとフランスのありえなさを感じました😓

仕方ないので、他の人が注文してるのを観察し、ちゃんと注文票を印刷できている端末を見つけてオーダー。

なんとか夕食にありつきましたが…値段は倍近い(パリの物価はほんと高い)のに、お味は日本のマクドのほうがおいしいと思いました…😓せつなーい💦

明日はいよいよDLP!楽しみです!


続きます~ヽ(=´▽`=)ノ

③へもどる

2024年10月15日火曜日

ロンドン・パリ旅行2024③「ロンドン」

 ロンドン1日目


ロンドン・ヒースロー空港には現地時間の朝6時半ごろ到着しました。

そこから入国審査、バゲッジリクレーム(預けた荷物の受取)を経て空港を出て…となるのですが、待ってる場所で自分の荷物が出てこない…?😰

すわロスバゲかとヒヤヒヤしつつ、そばにいた係員のおじさんに

「我々はカタール航空に乗ってきたのだが、荷物はどこで受け取れるのか?」

と尋ねたところ、

「カタール航空の貨物受取は◯番だよ!」

と教えてもらい、航空会社によって受取口が違うことを初めて知りました😂

そして無事荷物を受け取ることができ、次は地下鉄の乗口探し。

荷物を受け取った場所のすぐそばに「underground」と書かれた看板が…地下鉄に乗るならこっちかな?🤔

おっかなびっくり階段を降りていったら、目的のピカデリー線のマークがありました!ところが、切符の券売機っぽいものはなく、鉄道用プリペイドカードのチャージ機械しかないみたい…?

そういえば、ロンドンの公共交通はクレカをタッチすれば乗れるってネットで読んだな、と思い出し、試しに持っていたクレカをタッチ。改札を通ることができました!😃

(そのときは便利だ!って感動したけど、今思うと、そういえば交通費いくらかかったか全然わからないんですよね…😓来月の請求が不安です)

空港からだいたい1時間くらいで我々のお宿、ロイヤルナショナルホテルに到着です。

空港から地下鉄一本で来れて、駅から徒歩数分、ユーロスターの駅であるセントパンクラス・インターナショナル駅も徒歩10分圏内、そして大英博物館も徒歩数分という絶好の立地でした!

チェックインは午後3時以降なので、とりあえず荷物だけ預かってもらって、身軽になって大英博物館へ。このとき、朝9時50分くらい。開館は朝10時だけど、すでに建物前で待っている人たちが大勢いました。

私達は開館まで周囲を散策。そこに住んでいる人たちにはなんてことない景色なのでしょうけども、私達にとっては非日常!なんだか映画のセットの中を歩いているみたいでした💕

なるほどねえ、日本で京都の古い町家なんかを見て回る海外の観光客もこんな気持ちなのか~😁


憧れの大英博物館!


入場予約時間は朝10時10分でしたが、開館直後に行ったら普通に入れました😂

入館時には手荷物検査がありましたが、予約票のQRコードはまったくチェックなし!誰も見ない!

工エエェェ(´д`)ェェエエ工予約にかけた私の時間を返して…😭

と思ったのは一瞬で、冒頭写真の有翼人面雄牛像を見ただけでテンション爆上げ↑↑でした!😍


とにかく広い大英博物館、全部見てたら一日では足りないので、公式サイトに「見るべき」とリストアップされているものをメインに見て回ることにしましたが、何しろ長年にわたって増改築されている建物はまるで迷路💦

昼食を取ろうとむかった館内のピッツェリアへも、さんざん迷いながら行きました😅

ヨーロッパでは日本で言うところの1階がグラウンドフロア(地上階)またはゼロフロアと表示されるのもややこしい…つまり、2階は1階なのです。ややこしいですね(2回言う)😅

たどり着いたピッツェリアで巨大なピザ(しかも切れてない。テーブル備え付けのナイフで自分で切るスタイル)を食べ、飲み物を飲んでしばし休憩。

私はハワイアンピザを頼んだのですが、チーズの塩気にパイナップルの甘さがマッチ、しかも大きめのツナがごろごろ載っていて、たいへん美味しゅうございました😋

午後2時頃、さすがに歩き疲れたので博物館を出て、いったんホテルへ移動。チェックイン時間前だけど部屋で休みたい旨をフロントに伝えると、快くOKしてもらえました。そしてしばし昼寝😴

1時間くらい休んだら、まだ眠い夫を部屋に置いて、私だけで再入館😊予約なしであっさり入れました(手荷物検査は毎回ある)。

この日は金曜日。博物館は午後8時半(他の日は午後5時閉館)まで開いているので、まだまだゆっくり見て回れます。

それにしても、大英博物館に行ってみて驚いたのは、日本の美術館などにありがちな「順路」というものがないこと。

「どこから見てもOK!」

というとなんか自由でいい感じに聞こえますが、実際問題、あの迷路みたいな博物館を順路なしで初見で攻略するのは、ダンジョン攻略と同レベルでは…😅

まあ私はエジプトとギリシャ、アジア、メソポタミア、メソアメリカの部屋を見れたのでほぼほぼ満足ですが、できることなら中世ヨーロッパの部屋にもたどり着きたかったかな😓

そんなこんなで午後6時、外が暗くなってきたし、くたびれたしでホテルへ帰還。

リュックはホテルの部屋に置いてきたので、持っているのは財布代わりのウェストポーチだけ。ほぼ手ぶら、しかも一人、散歩気分でロンドンの街を歩くのは、とても楽しい経験でした😎🎶

夕食は、昼のピザでお腹がさほど減っておらず、何よりもうどこへも行きたくない気分😂だったので、日本から持ってきたパック入りアルファ化米を食べて終了でした。米最高👍✨️


ロンドン2日目

今日は留学中の子どもと朝10時にユーストン駅で待ち合わせ。

Googleマップで待ち合わせの目印にした銅像(石像?)が別の場所に移動されてたりしたけど、LINEで連絡を取りつつなんとか合流。

一緒にロンドン観光するのですが、子どもは夕方暗くなる前に寮に帰るため、午後3時にはロンドンを出るとのこと。そうなると、あまりあちこち周っている時間はなさそうです。

じゃあ、もう上空から一気にあちこち見渡せばいんじゃね?ということで、乗ってきました、イギリスが誇る世界最大級観覧車、ロンドン・アイ。

ユーストン駅から電車でウォータールー駅へ、そこから少し歩くと、ロンドン・アイが見えてきます(写真撮るの忘れました)。

周辺には水族館やお化け屋敷?的なエンターテイメントもあって、家族連れがいっぱい。

近くの建物内に液晶画面つきの券売機(スーパーや100円ショップなどで見かける無人レジみたいな機械)があって、当日券が買えます。トイレもあるので、搭乗前に行っておくといいかも。

ちなみに当日券のお値段は一人31ポンド。日本円でだいたい6千円くらい(レシートを見直してみたら、一人42ポンドでした😱2024年10月20日現在のレートで約8200円😱)

ま、これも記念だし…💸

買わない選択肢はないので、買いました。ネットから予約を入れていればもう少し安かったみたいだけど、時間が読めなかったのでしょーがない。


上空から見たビッグ・ベン。絶景!

ゴンドラは10人乗りくらいで広く、真ん中に座席(というかベンチ)もあるけどほぼ立ち見でした。日本の観覧車みたいな家族4人乗りくらいを想像していたので、大きなカプセル型のゴンドラにびっくりでした!

その後は駅にもどりつつ、昼食をどこで食べるか相談。マクドもKFCもあるけど、どっちも立食メインで、しかも私達のような観光客で満員御礼状態😓

座って落ち着いて食べたいよね…ということで、なんだかあまり観光客向けではないイタリアンレストランに流れ着きました。

若い店員さんはおらず、おじさん二人でやってる、明らかに地元客向けの小さなお店で、私と子どもでピザ一枚を頼んだら、2つのお皿に分けて出してくれました(おじさん、ありがとう!)😊

私は内心、「クレカ使えなかったらどうしよう…」と思っていたのですが、先に他のお客さんがカードで払っているのを見て安堵😁お値段も手頃でよかったです。


とても歴史がありそうなウォータールー駅。彫刻が素晴らしい。

さて、子どもが寮に帰るまでまだ時間があるので、どうせならバスでユーストン駅まで戻ろうとバス停に行ったのですが…バスが来ても、誰も乗せてくれない❗❓

どういうこと???となっていたら、同じくバス停にいた知らないおじさんが

「きみたち日本人?ぼくも昔、日本に住んでたんだよ!」

と声をかけてきてくれて、

「今、テムズ川のむこうでやってるデモが終わるまでバスには乗れないよ。バスもデモに参加してるから、動いていても人は乗せないんだ」

と教えてくれました。

バスがデモに参加!?ヨーロッパならではなのかな?😅

おじさんにお礼を言って、スマホで調べてみたところ、確かにロンドンでガザ衝突1年を期して反戦デモ、とあり、さらに「デモの終了予定時刻は午後4時半」とありました。

これは待ってられないよね~ということで、行きと同じ鉄路でユーストンへ移動。

ユーストンでは帰りの列車に乗る子どもを見送りました。1月に帰国するまで、またしばしの別れです。達者でなぁ~👋


コインランドリーとキャッシュレス社会

子どもと別れた後は、まだ外も明るいのでコインランドリーに行くことにしました。

ホテルに戻って、出国前に金券ショップで買っておいた10ポンド紙幣をフロントデスクでコインに替えてもらおうとしたら、「現金は扱っておりません」ですと…😓

キャッシュレス社会ぃ!

しょーがないのでホテルのそばのコンビニ?というか雑貨屋さんで安いミネラルウォーターを買い、小銭をゲット。おつりの紙幣もコインでくれと頼んでみたけど、これも断られました😓ま、しょーがないよね…

コインが足りるかな?と不安を抱えつつコインランドリーに行くと、窓口に人がいるタイプのお店!ヽ(=´▽`=)ノヤッター

窓口のおばさんに紙幣もコインに替えてもらって、まずは一通り使い方を教えてもらいました。

日本と同じように洗濯も乾燥も一台でできるのかと思ったら、機械が別で、洗濯がおわったら乾燥機に移動させないといけないシステムがちょっとめんどくさかったです。

そしてここでトラブル発生。

私が機械の操作をミス。操作盤にはキャンセルボタンを押せとあるのでキャンセルボタンを押しました。そしたら、お金が戻らず、機械は操作前の状態に…😱

退勤しようとしていたおばさん(おばさんは午後5時退勤らしい…そのとき時計は4時45分)に必死で

「お金を入れたのに、キャンセルボタンを押しても返金されないんだけど!?」

と訴え、おばさんは「私、もう時間なんだけど」としぶーい顔をしながら奥からコインを取ってきて機械に入れなおしてくれました。

おばさん、ありがとう✨️🙏おかげで無事、洗濯・乾燥できました💦

ちなみに、コインランドリーで乾燥させた洗濯物ですが、バッチリふかふかという感じではなく、ちょっと生乾きっぽかったです。フランスでもそんな感じだったので、機械が故障しているわけではなく、そういう仕様なんだと思います。

そんなわけで洗濯物をホテルに持ち帰り、適当にヒーターの上なんかに広げて干して(日本のホテルのバスルームでしばしば見かける物干しワイヤーはありませんでした)、その日は終了でした😴

続きます~ヽ(=´▽`=)ノ

②にもどる

2024年10月14日月曜日

ロンドン・パリ旅行2024②「離日~ロンドン」

 出発は関西国際空港


10月3日夕方6時半関西空港発のカタール航空で出発、ドーハ・ハマド国際空港でトランジット、ロンドン・ヒースロー空港には翌日4日の現地時間午前6時25分到着予定です。

実は夫は出発当日午前まで仕事をしなければならないかも…だったのですが、結果としてちゃんと休みがとれてよかったです。

写真は関空で撮影。雨☔だったせいもあり、もう夜みたいですね💦今回の旅行は日程の半分は雨。とくにパリは連日雨☔でした…😞

さて、事前に調べたところ、フライトは乗ってから1時間くらいで最初の機内食が出るとのことだったので、昼食後はなにも食べないよう、空腹で搭乗。


機内食はメインディッシュ(肉または魚。写真のものはマッシュポテトに隠れてますが、中にはチキンが入ってます)とサラダ(謎な味付けのものがしばしば出る)、パン、デザート、飲み物と小さなボトルに入った水というラインナップ。メインの味付けはやや濃い目ですがおいしかったです。謎なサラダはおいしいときもあれば、ん?と思うときもありで、自分の口にはちょっとな、というときは無理せず残しました。機内で体調を崩すほうが周囲に迷惑がかかると思ったので。パンとデザートは普通においしかったです。

食後はコーヒーなどホットドリンクとビスケットが配られ、その後消灯(日本時間で夜9時すぎくらい)。各座席には液晶モニターが付いていて、フライトプラン(目的地までの残り時間や今どの辺を飛んでいるのかなど)を確認できたり、映画を見たりゲームで遊べたりするので、まだまだ起きている人は多そうでした。私は持ってきたタブレットで小説を読んだりしつつ、就寝モード。

座席には枕代わりのクッションと毛布、モニター用のヘッドフォンが備え付けてあります。ほかに、これは関空~ドーハ間だけ、アメニティとして耳栓、アイマスク、靴下のセットがもらえました(帰路ももらえた)。9時間以上の長丁場だからかな?

ヘッドレストの位置がどうも私には合わなくて寝づらかったのですが、どうにかこうにかちょっと眠ったと思ったら機内が明るくなり、2度目の機内食。食べましたよ…謎のサラダは残しましたけどね😅


人生初トランジット



現地時間の夜11時20分、ドーハ・ハマド国際空港到着。タラップで駐機場に直接降りて、次の飛行機へ移動です。


ハマド空港名物?「ランプベア」というアート作品だそうです。

次の飛行機が出発するまで1時間50分あると旅程表にはあったので、立ち寄ったついでにお土産でも冷やかそうかと思ったのですが、空港の中がすごく広くて、トイレに寄ったりしているうちにそれどころではなくなりました💦

そして午前零時なのに空港のスタッフさんたちのあいさつは「Good morning!」。業界っぽい😂

トランジット後は6時間半くらいでロンドンまでの予定ですが、またもや出る機内食

サンドイッチとジュースという軽いものですが、すでに2食食べたあと、座ってただけなのでお腹が減っているわけがない!でも夫が「食べる」というので、私の分もあげました😂

その後、ロンドンが近づいてきた頃にまた機内食😅さすがにこれで最後です(もう何を食べたか覚えてないし、写真も撮ってないw)。

ヨーロッパまで約20時間のフライト中、機内食はだいたい4回出ると聞いてはいましたが、ホントでしたね…

そんなわけでロンドン到着です🛩️

続きます~ヽ(=´▽`=)ノ

①にもどる

ロンドン・パリ旅行2024①「離日準備」

はじめに 

子どもが今年2024年4月からイギリスへ留学するのをきっかけに、パスポートを取りました。

「留学先で何かあった時、すぐ駆けつけられるように」

と思って取っただけで、まさか自分が渡航するなんて思ってませんでした。

ま、行けたらいいなぁと思わなくはなかったのですけどね。なにしろ、イギリスには憧れの大英博物館があるし!🏛️

とはいえ、費用とか、夫の休みがそんなに取れるのかとか、フライトに20時間くらいかかるとか(トランジットした場合。直行便ならもっと速いようです)、ウン十年ぶりの海外なので旅先の情報をイチから調べるのが大変そうだとか、ちょっと考えただけで「うへえ…」でした😓

ところが、夫がH◯Sで7泊8日ロンドン・パリのパックツアーを見つけてから、事態が急転。

ホテルもフライトも選べないけど、二人で60万を割り込む格安ツアー。これは魅力的すぎる💕

それに、いつかいつかと言いながら年を取って、気がついたら「もう海外なんか無理…」という年齢になってしまわないとも限りません。

不安材料は尽きないものの、ジャングルの奥地に行くわけじゃなし、多少の不足は現地でなんとか補えるだろうし、何よりいまはネットがある!📲というわけで、「じゃあ行ってみますか…」となったわけでございます😂


準備について

フライトの便名や時間、ホテルなどなどが決まったのは、出発のひと月くらい前。H◯Sから電話があり、その後、出発の1週間くらい前に旅程表や申込みの控え、ロンドン~パリ間を移動するとき使うユーロスターのチケット(コードが印刷されたコピー紙)などなどが送られてきました。

旅は準備が9割と申します。

旅行会社の旅程表はフライトの時刻やホテル名など必要最低限の情報だけなので、私はその旅程表の情報に加えて、空港から最寄り駅までと、そこからホテルまでの道順、現地での予定などなども網羅した「旅のしおり」的なものを自分で作成😆

文書のフォーマットはMSワードのテンプレを使いました。↓これ、シンプルで使い勝手がよかったです。


現地の公共交通機関については頭が痛くなるまで調べまくりました。とくにパリ!私達が行くのはオリンピックが終わってお祭り騒ぎも落ち着いた頃ですが、「治安がよくない」という噂のRER B線は使わないという方針で行くことに。

まあ、その方針は結局いろいろあって反古になってしまったのですが…詳しくは後述します😅

荷造りにも頭を悩ませましたね~。7泊8日の日程ですが、最初の1泊と最後の1泊は機内泊なので着替えなどはしません。ということは…7泊中着替えるのは実質5泊。着替えは何セットあればいいのか、現地での洗濯はどうするか…😟人の数だけ答えがありそうですよね💦

家にあるスーツケースはディズニー旅行でいつも使っているもの。2泊3日なら十分ですが、1週間以上の旅行となると、夫一人の荷物だけでもう満杯。

でも今回のためだけに新しい大型スーツケースを買うのはあまりにコスパが悪いよね~ということで、押し入れの天袋に長年眠っていた小型スーツケースを引っ張り出しました。

子どもが小さかった頃、ちょっとしたお泊まりなどに使っていたやつ。まさか十数年ぶりに日の目を見ることがあろうとは😂機内持ち込みサイズだし、ロックは付いてないけどファスナー部分に錠前を通す穴があるので、ここにナンバーロックを買ってつければOK。

ただ、小型なので圧縮したとしても着替え2セットとパジャマが限界でしたね。余裕があれば着替えはもう1セットあってもよかったかも?🤔と、現地に着いてから思いました。

現地での洗濯は、近くにコインランドリーがあるならそちらへ、ホテルのランドリーサービスも値段に寄っては選択肢に入れるという場当たり式😂で行きましたが、結果としてロンドン、パリ、いずれのホテルも近隣にコインランドリーがあり、助かりました。

ただし、下着みたいなちょっとした洗濯ならホテルのバスルームでもできるように、3COINSのトラベルグッズコーナーで洗濯バッグを購入。自宅でいつも使っている液体洗剤も詰め替えパウチに入れて持っていきました。これはとっても役に立ちました!😄

ホテルのランクにも寄るかもですが、私が泊まったホテルはいずれもティッシュペーパーというものが部屋になかったので、ポケットティッシュは多めに持って行くのがいいと思います。ウェットティッシュも持って行ってよかった。

逆に、買わなくてよかった~とか、持って行かなくてよかった~と思った物は、変圧器とドライヤー。

変圧器は、重いしでかいし高価いしで購入に二の足を踏んでいたら、「スマホの充電くらいなら変圧器なしで大丈夫」みたいなことが家電量販店の売り場に書いてあったので、それを信じて購入をやめました😂もちろん、パソコンなどもっと繊細な電子機器を持っていく人は必要かと思いますよ。でも、私は結果としてなくても大丈夫でした😊

ドライヤーも、ホテルの部屋に普通に備え付けがあってよかったです。日本のものみたいにイオンで髪がツヤサラになるような機能はなかったけど…😂


予約したもの

今回の旅行のために自分で予約したのは、海外用モバイルWiFiと、大英博物館入場券と、ディズニーランド・パリ(DLP)のチケットです。

欧米の公共施設にはどこも無料のWiFiがある、と聞いていましたが、混雑していたら使い物にならないおそれもあるし、何よりセキュリティが心配なので、海外用モバイルWiFiをレンタル予約して持っていきました。

現地でプリペイドSIMを買うことも考えましたが、物理カードを入れ替えるのってめんどくさそうじゃない…?😒

モバイルWiFiは荷物になるとか充電がすぐ切れるとかいう話も見かけましたが、空港で受け取って空港で返却OKだし、変換プラグやモバイルバッテリーも一緒に貸してくれるし、複数人で使うならコスパはこっちのほうがいいのでは、ということで採用。

一番安い4G回線で1日1ギガのプランにしましたが、結果としてこれで十分だったし、大変重宝しました😄

大英博物館の入場券は、念の為取ったけど、結果としては必要なかったかも…😅私が行ったのが平日だったからか、さほど並ばなかったし。まあこれについても後ほど詳述いたします。

DLPのチケットはKLOO◯というアプリで予約しました。Google検索したら最安値!ってガン推しされたので😂DLPはランドとスタジオの2パークあるので、両パーク行き来できるチケットを2日、2人分で5万円ちょいというお値段。日本でランド・シー両パークのチケットを2日分予約するよりは安いかな、と思いました🤔


そんなこんなしているうちに、あれよあれよと出発日。

続きます~ヽ(=´▽`=)ノ

2024年9月22日日曜日

紅蓮の禁呪150話「竜と龍・七」


 「わたしがお前の力を増幅させる」


 黄根は宣言した。


「この娘の――紅子の命を、取り戻すんだ」


 彼と、紅子を抱えてうずくまる竜介を囲み、金色の法円が黒大理石の上で回転している。

 虫の羽音のようなかすかなハミング音に合わせて、その幾何学模様を複雑に変化させながら。

 竜介は視線を上げて黄根の顔を見た。

 正面にひざまずいている黄根と、間近に目が合う。

 こんなに近くで、この老人の顔をかつて見たことはなかった。

 金色の光輝に包まれているそれは、彼がよく知っているとおりに、威圧的で険しく厳しい。


 しかし――


 今はそれが、不思議なほど、この上なく頼もしく思えた。

 老人の口調が、自信に満ちているからだろうか?

 できるかもしれない。

 そんな気持ちが、ふつふつと湧き上がる。


 たとえ自分の命に替えても、彼女を取り戻す。


 竜介は答えた。


「わかりました。やります」



 ――寒い。


 闇の中に、彼女はいた。

 時の流れさえ凍てつく寒さと、永遠の闇。

 その中で、固く目を閉じ、膝を抱え、小さく小さく丸まっている。


 寒さをしのぐため――だけではない。


 彼女は何かをその胸に抱え込んでいた。

 その「何か」を守るために、ひたすら丸くなっている。


 それは、小さな炎だった。


 胸の奥の、小さな熱と光。


 いつからこうしているのかも、もうわからない。

 自分が何かを待っていたような気がするけれど、いったい何を待っていたのかすら思い出せない。

 それでも、この炎だけは、これだけは守らねばならない。

 これだけは、消してはならない。

 たとえその理由さえもはや思い出せなくても。


 そんな彼女に、闇がささやく。

 無駄だ、と。


 無駄なことだ。

 お前が忘れてしまったように、お前が待つものも、お前を忘れてしまった。

 もうすべてを手放してしまえ。

 楽になれ。


 闇にとって、彼女の炎は目障りなのだ。

 この炎のせいで、彼女を凍えさせ、完全に取り込むことができないのだから。

 彼女は闇の邪悪さを本能的に感じ取っている。

 だから、守りをさらに固くする。


 けれど――


 炎は少しずつ、その勢いを失いつつあった。

 それは今や小さな灯火(ともしび)となり、吐息のささやかな一吹きで消えてしまいそうだ。

 同時に、押し寄せる絶望が、心を蝕んでいく。


 なんだか、疲れたな……。

 手放してしまおうか……。


 そんな彼女の気持ちを鋭く感じ取り、闇が邪悪な歓喜に震える。

 それさえ、彼女はもうどうでもいいと感じ始めていた、そのとき。


 何かが――「だれか」が、彼女を呼んだ。


 聞いたことのある声だった。

 ずっと待ち望んでいた声だった。


「紅子」

 それはたしかにそう言った。


 炎がにわかに勢いを取り戻し、その熱と光が彼女の心をほどいていく。

 膝を抱えていた腕を解き、ゆっくりと起き上がる。


 闇が怯む。


 固く閉じていた彼女の双眸は今、開かれ、赤く燃えている。

 戻りたい。

 戻らなければ。


 周囲は上下すらわからない無限の闇だ。

 だが、彼女はふらつきながらも立ち上がった。

 闇はそんな彼女を威嚇するかのように、恐ろしい咆哮を響かせる。

 凍てつく吐息とともに針のような氷のつぶてが、彼女に襲いかかる。


 しかし、その攻撃はどれも彼女を傷つけることはできなかった。


 次の瞬間、彼女の足元から、オレンジ色の花びらのような炎が勢いよく燃え上がり、彼女の全身を繭のように包んだからだ。


 炎は灼熱の盾となって、闇が繰り出すあらゆる残忍な殺意の具象を防ぎ、さらには金色の火の粉を吐きながら、その赤い牙と舌で、見る間に闇を切り裂き駆逐していった。


 たった四つの御珠だけで強行された禁術で力尽きたはずの彼女の、どこにそんな力が残っていたのだろう?


 否、これは彼女「だけ」の力ではなかった。

 彼女に「戻ってこい」と呼びかける、その声の力。

 彼女を待つ人達の、心の声の力だった。


 そして――


 そして、彼女は戻ってきた。


 現実に戻ってきた彼女が最初に感じたこと、それは口の中の金気臭い血の味と、寒さと、そして強く抱きしめられている温もりだった。


 知っている匂いだった。


 目を開くと、懐かしい青い光の向こうに、確かに彼がいた。

 心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「竜……介」


 血が乾いて動かしにくい口で、そう呼んでみる。

 涙があふれた。


「紅子……!紅子ちゃん!」


 闇の中で聞いた声。

 それが潤んで聞こえたのは、気のせいではないようだ。

 竜介の頬にも、涙の筋が光っている。


「これ……夢じゃない、よね?」


 紅子がかすれた声で尋ねると、竜介は泣き笑いの顔になって、強く頭を振った。

「夢なもんか!君は、戻ってきたんだ」

 そうして、彼は紅子を抱きしめると、その耳元で言った。


「君は、帰ってきた……もう、どこへも行かないでくれ」



※挿絵はAI生成です。

2024年9月11日水曜日

紅蓮の禁呪149話「竜と龍・六」


 龍垓は、己の腹心の首がその胴を離れても、目もくれなかった。

 その代わりというように、竜介と黄根の間合いにより一層深く踏み込む。


 そのとき、鷹彦の起こした風撃の余波が彼らを襲った。


 激しい風に思わず目をかばう竜介。

 と、その瞬間、あのぞっとするほど強大な力の気配が消えた。

 慌てて視界を確保すると、すぐそこにあった黒い壁のような鎧がない。


 否。


 それは移動していた。

 十メートルばかり遠くに――つまり、法円の中央に。


 風で剥ぎ取られたフードから現れた、白い顔に、彼の目は釘付けになった。

 血の気はなく、目は落ちくぼんでいるけれど、それはたしかに紅子だ。


 そして、その背後には、龍垓の姿があった。

 小柄な紅子に比べ、その巨躯はまさにそびえるが如くだったが、今、それは更に大きく見えた。


 なぜなら、長剣を振りかざしていたからだ。


 ぎらつく長剣の切っ先が、スローモーションのように、紅子の頭頂へ吸い込まれていく。


 竜介は叫ぼうとした。

 駆け出そうとした。

 これが悪夢なら今すぐ醒めてくれと願った。

 せっかくここまでたどり着いたのに。

 目の前に彼女がいるのに。


 これで、終わりなのか――やはり、遅かったのか。何もかも。


 ところが。


 龍垓の剣が、少女の髪に今にも触れるというとき、突然ぴたりと止まった。


 次の瞬間、龍垓の足元に金色の法円が現れたと思うと、その姿は消え、再び現れたのは、竜介の目の前、元いた場所。

 大剣がいきなり頬をかすめるほどの距離に出現し、竜介は思わず飛び退る。

 が、龍垓は動かない。

 その喉元から偃月刀の切っ先が飛び出していることに竜介が気づくのに、さほど時間はかからなかった。


 龍垓の巨躯が前のめりに崩れ落ち、黒大理石に打ち付けられた鎧が、ガシャーン!と驚くほど大きな音を立てる。

 その後ろから姿を現したのは、黄根だった。

 彼は足元の巨大な黒い金属の塊を見下ろし、独り言のように言った。


「これでしばらくは動けまい」


 黒珠の王は――少し離れた場所で首と胴体がばらばらになって倒れている迦陵もそうだが――彼の言う通り、ぴくりとも動かない。

 驚くべきは、血や体液の類が一切、流れ出ていないことだ。

 彼らが人間どころかこの世界の一般的な「生物」ですらないのだ、と竜介は改めて思う。


「全員、早く舞台に上がれ」


 黄根が呼びかける。

 龍垓も迦陵も、炎珠の神女に焼かれたわけではないから、影にはならない。

 しばらく経てばまた動き出すだろう。


「立てるかね」

 泰蔵は、床に座り込んだままの志乃武に手を貸して立たせてやると、舞台の階段を上がるのを支えた。

 そばには日可理が付き添っているが、彼女では弟の体重を支えきれなかったのだ。

「ありがとうございます」

 二人がユニゾンで礼を言う。

 日可理は弟の切り取られた腕を傷口にぴったり押し当てている。

 力が復活した今、止血はできているようだが、痛みを完璧に消したり、もとに戻すのは、彼らでは無理のようだ。


「坊主、お前はこの舞台の周りに風で壁を作れ。破られるなよ」


 黄根に坊主呼ばわりされた上にそう念押しされて、鷹彦は一瞬ムッとした顔をする。

 が、


「紅子!?」


 玄蔵の悲鳴のような声が、和らぎかけた空気を再び凍りつかせた。

 円形舞台の中央。

 そこでは紅子が、糸の切れた人形のようにくたくたと崩れていくところだった――大量の、血を吐きながら。

 玄蔵が駆け寄り、竜介と鷹彦、それに黄根が続く。


「紅子、紅子……!!」

 娘を抱え起こしながら呼びかける父親の悲痛な声。

 竜介がそばに膝をつくと、玄蔵は今まで見たことのないすがるような目で言った。


「竜介くん、助けてくれ。君なら、できるだろう!?」


 そう言われて、差し出された紅子の身体を受け取る。

 しかし――


 その身体は、凍っているのかと思うほど冷たかった。

 薄く開かれた目に光はなく、紙のように白い顔に、乾き始めた血糊だけが、禍々しく赤い。

 それは、死者の顔だった。


「紅子ちゃん、助かるよな?なあ、竜兄?」

 鷹彦の声が、どこか遠くから聞こえるようだ。


 絶望、という言葉が竜介の脳裏をよぎる。


 ここまで来たのに。

 やっと……やっと会えたのに。

 遅すぎた。全部、何もかも、遅すぎたんだ。


 視界がゆがむ。

 全身の力が抜けていく。


 と、そのとき。

 いきなり視界が明るくなった。

 黒大理石の床に、竜介と紅子を囲む小さな金色の法円が広がっている。

 気のせいだろうか、ほのかに温かい。


「坊主、玄蔵さん、悪いがあんたらはこの法円から出てくれ」


 黄根老人が言った。

 二人が金色の法円の外に出るのを確かめると、竜介に向き直る。


「しっかりしろ、小僧」


 老人はぎょろりと左目で彼をにらみつけ、言った。


「今、このときのことを、わたしは何度も何度も見てきた。そしてこのときのために、ここまで来たのだ」


 まだ間に合う。


 黄根老人は、たしかにそう言った。



※挿絵はAIによって作成しました。

2024年8月30日金曜日

紅蓮の禁呪148話「竜と龍・五」

 


 日可理の足元には、服の袖ごと切り落とされた弟の前腕があった。

 切断部からこぼれた血が、黒大理石に赤いしみを作っている。

 その向こうには、うずくまる弟の背中。

 そして、彼の前に仁王立ちする、その力に比して驚くほど小さな、黒い死神の姿。

 その鎌から滴り落ちる、血――


 視界に映るすべてが、歪んで見える中、彼女はとっさに腕を拾い上げると、弟のそばに駆け寄ろうとした。


 嗚咽が止まらない。

 涙で濡れた頬が凍えるようだ。

 冷たく乾いた空気が、喘ぐ喉に刺さる。

 けれど、彼女は恐ろしさですくむ足を、必死で前に出した。

 気に入っていた白いファーのついたダウンコートが、見る間に血で汚れていく。

 血のついた手で涙を拭ったせいで、顔も赤黒く汚れてしまった。


 もう、異能は使えない。

 切断された腕など運んでも役に立つとは思えない。

 ただひたすら、無意識の行動だった。


 迦陵がその手の鎌をひと振りすれば、二人とも命はない。

 それでも、だからこそ、どうせすべてが終わるなら、志乃武のそばにいたい。


 と、そのとき。


 不意に軽くなった術圧が、彼女の足を止めた。


 その瞬間、その場にいた全員が、法円の中に視線を走らせ、異変を目の当たりにしていた。


 本来、黄珠が載るべき饕餮紋の柱――その柱の前にいた伺候者が、突然、文字通り崩れ落ちたのだ。

 その肉体を構成していた細胞一つ一つが、なんの前触れもなく黒い砂と化した。

 砂は見る間に人の形を失い、ざあっと音を立てて黒大理石の床に広がると、中身を失った黒衣が、その砂山の上にかぶさった。


 迦陵が小さく舌打ちするのを、日可理は聞いた。


「術圧に負けたか……」


 かすれた声で、黒珠の王がそうつぶやくのを、すぐそばで竜介が耳にした、次の瞬間。


 詠唱が途切れ――

 術圧が、完全に消えた。


 それは天与の静寂だった。


 そのとき、世界に、光が戻った。

 日可理は、力が戻るのを感じた。

 目の前では、志乃武の身体を再び白い輝きが包むのが見える。


 これで、志乃武を助けることができるかもしれない――


 だが、その安堵は次の瞬間、絶望に塗りつぶされた。

 迦陵が右手の鎌を下から大きくすくい上げようとするのが視界に入ったからだ。

 鎌の動線の先には、志乃武の首がある。


 間に合わない――


「志乃武さん!!」


 声を振り絞り日可理はそう叫ぶと、無我夢中で弟に背後から覆いかぶさった。

 もしかすると、迦陵の刃なら、二人とも一刀両断されるかもしれない。

 それでも、そうせずにいられなかった。


 ところが。


 強く目を閉じ、その瞬間を待つ彼女に、志乃武が言った。


「日可理、目を開けて」


 彼に促されて目を開けたとき、最初に目に入ったのは、迦陵の巨大な鎌の切っ先。

 それと、もう一つ、見覚えのある両刃の剣。


 剣に沿って視線を上げると、その先には、彼女が作って泰蔵に託した式鬼のうち一体、氷華がいた。

 左手に目を転じると、そこには雪華。


 彼らの剣が、迦陵の刃を止めていた。


 以前にも書いたが、あるじの持つ能力を式鬼は受け継ぐ。

 つまり、雪華・氷華は今、泰蔵と同じく、一秒を五倍にした速さで動ける。

 迦陵の動きを封じるなど、今の彼らには児戯に等しい。


 迦陵が体勢を整えようと刃を引きかけた、そのとき、その背後に影がさした――そう日可理には見えた。


 次の瞬間、影は泰蔵の姿に戻ると、


「悪く思うなよ」


 迦陵にむかってそう言うなり、手にした偃月刀を一閃した。


 ごとん。


 重い音とともに、迦陵の首が、黒大理石の床に転がる。

 その音は、まるで形勢逆転の合図のようだった。


「よっしゃあ、遊びの時間は終わりだぜ!!」


 鷹彦の吠えるような叫びとともに、凄まじいつむじ風が巻き起こる。

 それは彼と玄蔵の手を煩わせていた「雑色」二体の呪符を斬り捨て、法円内部に残る三体の伺候者たちを黒砂に変え、そして――

 そして、法円中央に立つ小さな黒衣のフードを、剥ぎ取った。


 フードから長い黒髪がこぼれた。

 紅玉を散りばめた髪飾りで古風に結われた髪。

 血の気のない頬の肉は落ち、黒ぐろとした目が大きく、細い顎が鋭角を描いている。


 やつれて面変りしている。が、しかし、それは確かに――


 紅子だった。


※挿絵はAIで作成しました。

2024年8月11日日曜日

紅蓮の禁呪147話「竜と龍・四」

 


 人の声とは思えない音だった。

 息継ぎもなく、一定の抑揚とともに繰り返されるうねり。

 太古の力を孕むその音は、最初の抑揚の区切りが終わるまで一つの音だったのが、新たな音のうねりに入るとき、四つ――おそらく伺候者たち――の音が加わって五重唱となった。


 のしかかるような術圧。


 黒帝宮を包む氷殻を形成する力場が、この恐るべき音を非可聴音に変換し、増幅する。

 文字通り、世界を揺さぶるために。


 同時に、法円の中では、対角線上に立つ四本の列柱のうち、二つの饕餮紋上に、それぞれ見覚えのある白珠と碧珠、そして三つ目に、忌まわしい青白い鬼火をまとった黒い宝珠――黒珠が現れた。


 中央の柱には、真紅の宝珠、炎珠が輝いている。


 禁術を止めねばならない。

 今すぐに。

 彼らの行く手を阻むのは、迦陵とたった二体残った雑色のみ。

 もとより迦陵を引き受けるつもりの泰蔵が、竜介と黄根にそっと視線を送る。


 しかし。


 彼らは動かなかった――否、動けなかった。


 法円の外の壇上。

 何もなかった空間に突然黒い波紋のようなものが現れたかと思うと、それはあっという間に大きくなり、波間の闇から「彼」が姿を現した。

 「雑色」たちと迦陵がその場に膝をつき、頭を垂れる。


 黒い鎧を身に着けた隆々たる体躯に、黒い巻き毛に縁取られた美麗な白い顔。


 龍垓だった。


 巨大な氷殻の内部であるこの黒帝宮は、意外にも頬に当たる空気が地上よりも生温い。

 しかし今、この亡者たちのあるじを中心に、周囲の気温は急激に冷え始めていた。

 それが気のせいではない証拠に、龍垓の足元の黒大理石に、白く霜が降り始めている。

 

 凄まじい冷気と、恐るべき力の気配。


 龍垓と見(まみ)えるのが初めてではない竜介でさえ、慣れることがないこの圧迫感に、残る六人が圧倒されないわけはなかった。

 多少のことでは顔色を変えない黄根さえも、心なしか青ざめた顔で黒珠の王を凝視している。


 龍垓は足下を睥睨すると、口の端を歪めて嗤った。


「我が城へ、よくぞ参った」

 闇の王はそう言って、己が腰に佩(は)いた大剣をすらりと抜き放つ。

「本日よりここが汝らの墓所とならん。名誉と思うがいい」


 その言葉が合図だったかのように、周囲が暗くなった。

 気のせいではない。

 竜介たち七人が放っていた光輝が、一斉に消えたのだ。


 禁術の準備が整い、起動を開始したということだろう。

 異能(ちから)が使えなくなった。


 驚き動揺する竜介に、龍垓の大剣が容赦なく襲いかかる。

 竜介は持っていた偃月刀でかろうじて受けるが、衝撃が重く、思わず後退してしまう。

 鷹彦と玄蔵も、残っていた「雑色」でそれぞれ手一杯だ。


 白鷺家の姉弟は、式鬼や呪符が使えなくなった。

 氷華と雪華もただの紙片に戻り、ひらりと黒大理石の床に落ちる。

 次の瞬間、それらの紙片を蹴散らすようにして、迦陵が泰蔵の間合いに入った。


 速い。


 異能が使えない泰蔵に、迦陵の刃を避ける術はもはやない。


「泰蔵さん!!」

「親父っ!!」

 志乃武と玄蔵の叫び声と、日可理の悲鳴が交錯する。

 が、まさに間一髪。

 死神の大鎌は、またしてもその威力を振るいそびれた。

 今度は黄根が、「雑色」から奪った二本の偃月刀を使い、見事な両刀術で迦陵の刃を止めたのである。


「すまん」


 泰蔵が前方の迦陵に視線を固定したままつぶやくように言うと、黄根も同じく迦陵を見たまま、左手の偃月刀を泰蔵に素早く押し付ける。


「今はいい」


 早口でそう返し、「行くぞ」と一言。

 今度はこちらから、小さな黒衣の間合いに入る。

 禁術のほうに黒珠の力を傾注しているため、迦陵も龍垓も異能を使うことはない。

 純粋に、膂力(りょりょく)のみがものをいう戦いだ。


 そして迦陵は、泰蔵と黄根の二人を相手に、互角以上だった。


 小さな黒衣の振るう二本の鎌が彼ら二人を振り回す様は、まるで台風の目のようだ。

 泰蔵も黄根も、その着衣に、皮膚に、少しずつ刃のあとが増えていくが、それを厭(いと)う様子はない。

 むしろ、怪我を承知で間合いに踏み込んでいるきらいすらある。


 実は、彼らの視界の端には、法円に忍び寄る日可理と志乃武の姿があった。


 法円の周囲に結界の術圧は感じられない。

 伺候者たちも異能を使えないのであれば、彼ら二人でどうにかできる可能性はある。


 泰蔵は日可理たちとは反対側に視線を走らせた。

 龍垓は重い鎧を着けたまま、まるでハンデを楽しむかのように竜介の相手をしている。

 日可理たちがいるのは、法円を挟んでちょうど龍垓の背後だから、気づかれる恐れはまずない。


 迦陵だけをこちらに引き付けておけばいい――


 やたら踏み込んでいく泰蔵の意図を、黄根もまた察していた。


 日可理と志乃武は黒大理石の舞台を回り込み、幅広の階段を上がって、今しも法円の中に立つ一体の伺候者の背後に近づきつつあった。

 だが、目前の伺候者が纏う黒いローブに、志乃武が掴みかかろうとした、その瞬間。


 彼の左手の肘から先が、消えた。


 すべてがスローモーションのようだった。

 志乃武の前には、いつの間にか迦陵がいて、振り上げた片方の刃から、赤い液体が滴り落ちていた。

 生臭い匂いが鼻をつく。


 血だ。


 下から上に跳ね上げるように切り取られた腕は、空中に赤い血の弧を描き、次いで、ボトリ、と重い音を立てて、志乃武のすぐ背後に落ちた。


「何人たりとも、邪魔はさせぬ」

「いやぁぁぁっ!!志乃武さんっ!!」


 迦陵の声。

 日可理の悲鳴。


 そのどちらも、激痛と闘う志乃武の耳には、どこか遠くから聞こえるようだった。

「ぅぐっ……!!」

 絶叫を噛み殺し、彼は残った右手で血が吹き出す左腕を押さえようとしたが、力が入らない。

 目の前が暗くなり、膝から力が抜けていく。

 志乃武は自分の血溜まりの中に崩れ落ちた。


 明るくなったり暗くなったりを繰り返す視界に、自分と迦陵の間に割って入る泰蔵の背中が見えたと思った、そのとき。


 不意に、術圧が軽くなった。


※挿絵はAI画像です。

紅蓮の禁呪157話「禁術始動・四」

   まる四日眠っていた、と医者から告げられたときは自分の耳を疑った。  診察の結果、医者は紅子をまったくの健康体だと請け合って、彼女の身体に取り付けられていた管やセンサーを外してくれたあと、 「今夜一晩様子を見て問題なければ、明日の午後退院しましょう」  と言って、看護師を連れ...