2017年2月15日水曜日

セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』感想

言わずと知れた、ジェイン・オースティンの名作『高慢と偏見』の有名なパロディ作品です。
前からこの本の存在だけは知っていたのですが、私がさほどゾンビ好きでないことから、読むのを見送っていたところ、去年映画化され、youtubeで見たその予告編がえらく面白かったので、手に取ってみた次第です。

物語の大筋は、オースティンの名作とほぼ同じ。
お読みになったことがない方のために(ものすごく)ざっくり説明しますと、18世紀末、ハートフォードシャー州の田舎町ロングボーンに暮らすベネット家5姉妹のうち3人が恋に落ちたり求婚されたりそれを蹴ったり受け入れたり駆け落ちしたりしてハッピーエンド、というお話です。

で、本作はタイトルに『とゾンビ』とある通り、舞台となるイギリスには死者がゾンビとしてよみがえる謎の疫病が蔓延しているという設定なので、物語のあちこちにゾンビが登場します。
ベネット家5姉妹も、華やかな社交界を夢見る普通のレディ達、ではなくて、なんと、はるばる中国まで武術修行に行ったこともあるという、優秀なクンフー・レディ達!(笑)

ベネット家次女・エリザベスとともに我々読者をやきもきさせるダーシー氏も武術に秀でており、彼のいやみったらしいおばさま(レディ・キャサリン・ド・バーグ)も、有名な武闘家という設定です。

武術の本場は日本の京都というのがこの作品世界での常識らしく、中国で修行したエリザベスたちは、レディ・ド・バーグから鼻で笑われたりします。
そんなレディ・ド・バーグのボディガードは、ニンジャ(日本の「忍者」とは微妙に違うので、あえてカタカナ)。
世話係はなんと、ゲイシャ(これも日本の「芸者」とは以下同文)。

他にも元ネタと微妙に違うところがありまして、まず、コリンズ夫妻はシャーロットがゾンビ化、コリンズ氏は自殺。
女たらしウィカムとリディアは結婚しますが、ウィカムはダーシー氏にフルボッコ(!)にされて一生寝たきり状態。
作者のグレアム=スミス氏は、コリンズ夫妻とウィカムが嫌いなのか…??
まあシャーロットはともかくとして、コリンズ氏とウィカムは嫌われキャラではありますが。

それにしても、ペンバリー館の召使いたちが「とても穏やかで優しい」と評するダーシー氏がフルボッコって!ちょ、性格ブレすぎ!
エリザベスはエリザベスで、ゾンビ化していく親友シャーロットを気遣っていたかと思えば、レディ・ド・バーグのニンジャを殺して、あろうことかその胸から心臓をえぐり出して食べるし!
ナニソレおいしいの…?(怖)

とまあ、ゾンビ小説らしいこのようなグロ表現も散見される本作なわけですが、元が恋愛小説なので、当然ながら切ない恋愛模様も展開されるわけで、読者としては笑ったり怖がったり怒ったり切なくなったりと、かなりせわしない感情の切り替えを要求される作品です。
ダーシー氏がハンスフォード館でエリザベスに最初にプロポーズする場面では、エリザベスは文字通りダーシー氏を「蹴って」いたりするんで、これって笑うとこだったっけ?というような調子で、かなり感情的に混乱しますw

個人的には、ペンバリー館の庭園とか建物の描写がヘンな和風(?中華風?)になっていて、脱力させていただきました。

あと、作中のところどころに入っている、うまいんだか下手なんだかよくわからない挿絵!あれも脱力ポイント。

私はこの一冊でゾンビはお腹いっぱいという感じなんですが、巻末の「訳者あとがき」によると、ゾンビ好きの皆様には物足りなかったようで、ゾンビが30%増量(笑)されたデラックス愛蔵版もあるそうです(日本語未訳)。
映画化されたのは、どうやらその愛蔵版のほうみたいですね。

というわけで、もっとゾンビを!という方は、英語版の愛蔵版をお取り寄せになるか、映画をご覧になるといいでしょうw

それにしても、「○○とゾンビ」って、日本文学でも書いてくれる人いないかな?

「坊っちゃんとゾンビ」とかいけそうじゃないですか?
夏目漱石の遺族から文句が出るかな?w

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