つくしあきひと氏原作「メイドインアビス」、アマプラで履修してみたところ、世界観にドハマリしてしまい、現在放映・配信中の二期も毎回楽しみにしています。
とくに私が興味を惹かれたのは、劇中での数々の非人道的な振る舞いにより、同作品ファンからは蛇蝎のごとく嫌われているキャラ、ボンドルド卿。
彼が何をしでかしたかについては本編をご覧いただくとして、いずれも確かに「人道に照らすと」唾棄すべき行為ではあるのですが、彼自身にとっては、アビスの謎を解き明かすという自らの知的欲求にどこまでも純粋に従った結果の行為であり、そこに「悪意」がないという点で、一般的なヴィランとは一線を画すように私には思えました。
以下は、そんなボンドルド卿の謎についての考察です。ネタバレありなのでご注意!
◆ボンドルドの仮面
劇中設定では、彼の仮面とは、それを装着した他者の精神を彼に隷属させるための道具です。
ボンドルドは、自分の魂をアビスの特級遺物である精神隷属機「ゾアホリック」に移し、仮面を使って他者を「乗っ取る」ことで、事実上の「不死」を手に入れたのです。素晴らしい…ってボンドルド本人は思ってるんだろうなぁ。
つまり、あの仮面はゾアホリックの「端末」のような役目を果たしているのでしょう。
ちなみに、彼は自分の白笛を手に入れるために自分の身体を使った(白笛の元になる石「命を響く石(ユアワース)」は人間から作られたもので、しかも、「材料」となる人間は、白笛の使い手にすべてをささげる覚悟が必要。ボンドルドにはそこまで強い絆で結ばれた特別な他者はいなかったと思われる…さもありなん)ので、オリジナルの肉体は残っていません。作中で動き回っている彼の身体は、おそらく彼の部下である祈手(アンブラハンズ)の誰かのもの。
文字通り己の知的欲求に己のすべてを差し出したわけで、ここまで来ると、もはや狂気の沙汰も通り越していっそあっぱれですらありますね…。
◆仮面の象徴的意味
ボンドルドが作ったのか、それとももともとゾアホリックの付属品(?)なのかは謎ですが、精神隷属機だから頭に近いところがいいとしても、あんな暑苦しそうな仮面でなくとも、首輪でも額飾りでもかまわないはず。
なぜ、仮面なのでしょう?
古来、仮面の役割とは、「見えざるものの依代となること」でした。
日本の伝統芸能である能楽でも、神や怨霊など「人ならざるもの」の演じ手は必ず面をかぶっていますし、なまはげなども仮面をかぶって「年神」を演じ、新年の幸福を祈る行事であることは、読者諸氏ご存知の通り。
仮面をかぶることで人としての己を消し、神との同一化をはかり、豊穣を祈ったり、病魔を退けたりするシャーマニズムは世界各地(特にアジア)に広く見られる風俗です。
つまり、ボンドルドは仮面によって不死を手に入れ、かつアビスに仕える「神官」となり、アビスという「神」と同一化したわけです。
人間を超越しちゃったんですねえ…神の視点を手に入れてしまった彼にとって、「人道的」とか「倫理観」などというものが意味を持たなくなるのも、ある意味当然といえば当然かもしれません。
アンブラハンズが全員、彼と同じく仮面をかぶっているのも、彼らが同様に神に仕える「神官」だからなのでしょうね。
◆アビス探求至上主義
実験のために連れてきた子どもたちについて、「あれらは人間としての運用はしておりませんので」などというぞっとするようなセリフを平然と口にする一方で、娘である(とボンドルドは言っている)プルシュカに対しては温かな愛情を注いでいる(ように見える)場面もありますが、彼の言動を総じて鑑みるに、彼にとって「人間として扱うかどうか」という区別は、「家畜かペットか」という区別と大差なさそうです。
彼にとって、すべての生命は、アビス探求のために存在する。
そこに例外は存在せず、自分の肉体すらアビス探求のために白笛に変えてしまったのですから、まさに「筋金入り」です(まあ、魂というか意識だけはゾアホリックに移せたからこそできたことではありますが…)。
彼がやったことに対して他人が見せる喜怒哀楽や愛憎さえも、「脳細胞の電気信号と脳内分泌物に踊らされているだけ」とか思ってるんじゃないかなぁ。
◆なぜ「目」を見せた?
第六層に向かうリコたちを見送る場面。ボンドルドの仮面はリコたちとの激しい戦闘によって壊れており、壊れた場所から片目がのぞいていました。とても印象的な場面なので、憶えている方も多いでしょう。
戦闘中に壊れた仮面からのぞいた彼の目は複眼で、人ならざるものを思わせましたが、その個体が戦闘に敗れると、別のアンブラハンズが壊れた仮面を拾い上げて「新しいボンドルド(文字通り)」になり、そのときの目は、生身の人間のものでした。
アビスの遺物によって改造した肉体ではなく、一時的にせよ生身の肉体となったボンドルドは、そのまま他のアンブラハンズたちとともにリコたちを見送りますが、なぜわざわざ見送りに出たのでしょう?
これは私の推測ですが、白笛を得たリコの、アビスに対する探究心に、ボンドルドは同じ「白笛」の探窟家として、最大の敬意を払ったということでは…?と考えています。
また、目は古来、人間の身体で最も強い呪力を持つ器官。
最も有名なのは、古代エジプトの魔除けとして墓室や棺などに描かれた「ホルスの目」(ラーの目、ウジャトの目とも)でしょう。
古代メソポタミアや中国の遺跡からも、やたら目を強調した人物像などの遺物が発見されています。
日本でも「目は口ほどにものを言い」というように、最も感情を表す器官でもあります。
ボンドルドは奇しくも生身の目でリコたちを見送ることにより、自身の言葉通り、アビスに仕える者として最大の「呪いと祝福」を彼らに与えたのですね。
そういえば、リコたちが第六層へ行くために乗り込んだ昇降機も、もろに眼球の形でした。彼らは「呪いと祝福」の象徴たる目そのものに運ばれて、アビスのさらに奥へと進んだわけです。
さてさて、作中、アビス下層の生物が上層へ移動していたりするところを見ると、どうやらアビスの力場が上昇してきている模様。オースの街での異変も、島の外の医療船に移動した途端元気になったキユイを見るに、アビスの力場が穴の外にあふれつつあるしるしのようです。
いったい、アビス最下層では何が起きているのか…
私には、最下層の異変を知ったライザが、オースの街の人々に警告するためレグを送ったのでは?と思えるのですが…
いずれにしても、続きが楽しみです!
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