帯のアオリが虚しい本に当たる確率が高い気がする今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
この本は、北里大学獣医学部に実在のサークル、「北里しっぽの会(正式名称:北里大学犬部愛好会)」の創設から、ある事件による活動停止、そして再開にいたるまで(おおまか2004年から2009年まで)を書いたノンフィクション本です。
動物ものっていうと、一般的にはいわゆる感動ポルノの急先鋒といいましょうか、愛と感動、涙と笑い、もうそれしかない!って感じなんですが、この本に至っては、私は読んでるあいだ、ずーっとモヤってました。
理由はいろいろあって、まず、登場人物(動物)が多く、物語のように誰か一人の視点で書かれているわけではないのと、同時多発的に起きることを無理に時系列に落とし込んで書いてあるので、
「アレッ、この話の続きは?」
とか
「で、結局どうなったの?」
と思うことがたびたびあり、すごく散漫な印象を受けたのが一つ。
次に、社会人受験で入学してきた大山氏が犬部のシステムをどう改革したのか、ということや、活動再開に当たって何がどう改善されたのか、ということがつっこんで書かれていないことも、理由の一つ。
身勝手な理由で動物を捨てたり、犬部に押し付ける飼い主たちのことは、もちろん読んでて腹が立ったんですが、そこはまあ、だれでもモヤる部分だと思うので、この際ちょっと脇においときましょう。
すでに私がモヤっときた理由を二つ書きましたが、実は、私をモヤっとさせた問題は、まだあるんです。
私を最もモヤモヤさせたもの、それはずばり、このサークルのシステム。
「ワンオペ飼育」
ともいうべき、保護動物たちの世話のやり方です。
この本によると、北里大学のキャンパスは2箇所あり、獣医学部の学生は神奈川県で初年度の一般教養過程を修了した後、2年度以降は獣医学部がある青森県までエンヤコラ大移住しないといけないんだそうで、そんな理由から、基本、獣医学部生は一人住まいということになります。
そしてですね、犬部には、引き取った動物を世話するための設備が、学内にないんです。まあ、単なる部活(それも非公認)だから、仕方ないことではあるんですが。
しかし、それってつまり、
部員が、(一人住まいの)自宅で、一人で、世話をする
ってことなんですよ。
餌代や医療費も、一部、地域の人からの寄付や、獣医さんのご厚意もあるようですが、基本、自腹です。
何も問題がない成獣(または離乳後の幼獣)の面倒を見るなら、これほど楽しいことはないでしょう。故郷を遠く離れた一人暮らしのわび住まいに、可愛い天使が舞い降りたってなもんですよ。
が。
これが、問題行動や病気を抱えた、24時間介護が必要な動物、または離乳前の幼獣だったとしたら?
たちまちワンオペ育児ならぬ、ワンオペ飼育(介護)の始まりです。地獄の門が開かれた、的なやつです。
その最たるエピソードが、第10話、11話、13話にまたがって書かれている、「ホワイト」という犬の話。
ホワイトは激しい癲癇発作のせいで一度は安楽死さえ視野に入れなければならないような状態から、犬部の一部員に過ぎない池田氏の献身的看護によって奇跡的復活を遂げるのですが、発作の後遺症か、排泄場所に無頓着になり(自分の寝床で排泄し、汚物の上でそのまま寝てしまう)、さらに、食べ物に過度に執着するという問題を抱えてしまいます。
ホワイトはその後、池田氏の飼い犬ナナが血液性のガンにかかったため、大山氏のもとへ。そこから、H氏、高橋氏、その友人の岩木氏と転々と世話係を変え、最終的に岩木氏のもとでその生を終えます。
ホワイトのような問題を抱えている犬を進んで飼おう、世話しようと思う人は希でしょう。
そういう意味では、池田氏を始めホワイトの世話に当たった方々は皆、とても奇特な、心優しい人たちだったと言えます。
しかし、彼らは学生で、24時間犬の世話ばかりというわけにはいきません。
おまけに、池田氏はインフルで高熱の最中、犬部が愛護団体から借りているシェルターまで、人手が確保できないために一人で動物たちの給餌に通った(しかも、雪道を自転車で!)ということもあったそうで、これはもはや、「ブラック部活」もビックリのレベルですよ。
私は専門家ではないし、これはあくまで推測なのですが……結果としてホワイトの死につながった、最初の激しい発作については、飼い主であったQさんが投薬を怠った、あるいは、獣医師の指示に寄らず自己判断で投薬を減らしたのではないか?と推測しています。
保険が利かない動物の医療費は高いですから、飼い犬の病気について理解が浅いまま、症状が安定しているからと勝手に薬を減らしたりやめたりということは、充分ありえることでしょう。
さて、それはともかく。
ホワイトの死後、犬部は、ムックという噛み癖のある保護犬が部外者を噛んでしまい、責任問題から無期休部に陥ります。
そこからサークル内でのミーティングを重ね、周囲からの支援もあり、2009年の4月に活動再開で、文庫版あとがきには、犬部創設者である太田氏や大山氏ら卒業生の近況なども書かれていて、めでたし、って感じで終わってるんですが、個人的には
えっ、何も問題解決してなくね?
って思いました。
ワンオペ飼育問題も、ブラック部活問題も、解決策が提示されることなく、ただ「覚悟」という精神論の問題になってて、「はあ?」でした。
第16話で、「動物の命を救いたい。でも、自分の生活も犠牲にしたくない。」という後輩たちの言葉に対して、犬部創設当初からの部員である大山氏が、それなりの覚悟がないなら愛護なんてやめろ、と不満を述べてますが、そもそも犬部ってサークル活動ですよね?
サークル活動ってそこまでしてやることですか?
学生の本分は勉強ですよね?犬猫にかまけて単位落としてたら、元も子もなくない?
確かに、命を預かっているということについては、それなりの覚悟が必要でしょう。
しかし、だからこそ、たった一人で命を預かるようなワンオペ飼育はやめ、少なくとも二人一組で動物の世話に当たるべきなんですよ。お互いがお互いの相談役やヘルプになれるように。
そして、問題を抱えている動物については、それ以上の人数で当たるべきで、学内か学校のそばにシェルターを作るのが正解だと思います。
で、そうなってくると、いわゆる学生が気楽に参加するような意味での「サークル活動」としては絶対無理なんですよ。学校側の許可の問題もあるし。
ていうか、なんで「サークル活動」にしちゃうかな~って読んでいて思いました。
ちなみに、現在の「北里しっぽの会」は、ホームページによると、「学生ボランティア団体」ということになっているようですね。
「ワンオペ飼育」が解消されたかどうかまではわかりませんが、かなり組織だった運営がなされているようで、ひとまず安心しました。
2018年10月2日火曜日
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