2024年5月30日木曜日

紅蓮の禁呪145話「竜と龍・二」

 

 夕暮れのほのかな残光が消え去ると、分厚い黒雲に覆われた街は闇に沈んだ。

 雲の奥で閃く稲妻が、ほんの気まぐれのように、時折、辺りを青白く照らす。

 それを除けば、明かりと呼べるのは先行する除雪車と、彼らの車の四つのヘッドライトだけだ。

 人工的な白い光が、雪と氷のせいで色を失った無人の街をさらに不気味に演出する。


 彼らが目的地に到着したのは、時計の針が午後六時半を過ぎて、三十五分に近づきつつある頃だった。


 案内はここまでという当初の取り決めがあったので、除雪車はビルの前でUターンすると、次の作業場所へ向かって行った。

 この寒波のせいで、除雪車や雪上車は仕事が目白押しなのだ。

 去り際、除雪車の作業員は車の窓を開けると、ワゴン車の運転席にいる虎光にむかって、何度もこう念押しした。


「必ず半刻以内にはここから来た道を戻ってくださいよ!」


 このとき、それまで降りしきっていた雪はやみ、風も弱まっていた。

 しかし、今の都内の気候はあまりにも不安定だ。

 彼らも仕事柄、いつまた猛吹雪が襲ってくるかわからないような場所に一般車両を置き去りにしたくはなかったのだろう。

 虎光自身も、なるべく早くここを立ち去ったほうがいいとは思っていた。

 けれど、それは後部座席にいる面々の意見次第だ。

 ヘッドライトの中に浮かび上がる本社ビルの地下駐車場入口は、シャッターが降りている。

 彼はシャッターを開ける鍵をセキュリティから預かって来ているが、今目の前にあるそれは、どう見ても凍りついて動きそうにない。

 そしてたとえ中に入れたとしても、停電でエレベーターが動かないため、最上階までは階段で行くしかない。


「ここからどうします?」


 彼が運転席から肩越しに尋ねると、


「ここで降りる」


 相変わらず苦虫を噛み潰したような顔で、黄根が言った。


「中には入れませんよ」

「わかっている」

 鷹彦の忠告を、黄根はうるさそうに手を振って制した。


「今ならば、地上から直接行ける。黒帝宮を囲む力場が弱まっているからな」


 そう言って、虎光に車のスライドドアを開けるよう促す。

 竜介が慌てて尋ねた。

「もう儀式が始まっているんですか?」

 力場が弱まっているということは、黒珠の力が儀式の立ち上げに使われているということだ。


「まだだ。だが、もうまもなくだ」


 黄根が短くそれだけ答えたちょうどそのとき、車のドアが開放され、凍てつく外気が一気に流れ込んできた。

 黄根を除く車内の全員が、急激な寒さに思わず身を縮めるが、それもほんの一瞬だった。


「急ぎましょう」


 一番ドアに近い日可理が先陣を切って雪と氷の中へ出て行く。

「滑るから気をつけてください」

 続いて出た志乃武が、あとの五人にそう声をかけた。

 オートモードになっている車載ヒーターが、下がった室温を元に戻そうと凄まじい勢いで温風を吐いているが、この寒気にはとうてい太刀打ちできそうもない。

 虎光は着ていたダウンジャケットのファスナーを首元まで上げながら、今朝見た天気予報を思い出す。

 たしか、東京の予想平均気温は零下二十度だった。

 七人が降りるのを見計らってドアを閉めたら、窓を開ける。

 冷気に噛みつかれる痛みをこらえながら顔を出し、エンジン音に負けないよう彼は叫んだ。


「みんな気を付けて!」


 ヘッドライトに浮かぶ全員が彼にむかってそれぞれ会釈をしたり頷いて見せ、彼の兄弟たち二人は片手を上げた。


「母さんたちを頼んだぞ!」


 竜介の声が返ってきたと思った、次の瞬間。


 金色の法円が七人を囲むように現れ、彼らの姿は跡形もなく消えたのだった。



 不帰の旅路は、その先に待つものの重さとは対象的に、あまりにもあっけなく終わった。


 一瞬、視界が暗くなって地面がなくなり、空間識失調に襲われる。


 竜介と黄根老人を除くあとの五人にとって、それは事前の説明もなく恐怖の経験だったと思われるが、誰も――鷹彦でさえ、悲鳴を上げたりすることはなかった。

 なぜなら、視界と重力が戻ったと同時に、首の後ろに強烈な痛痒感を覚えたからだ。


 自分たちが今、紛れもなく黒珠の根城にいるという証だった。


 彼らが最初に目にしたものは、不気味な燐光を放つ一メートルほどの列柱。

 次いで、夕暮れのような薄明の中に浮かび上がる、つややかな黒曜石を敷き詰めた広場と、それを取り囲む広大な廃園だった。

 黒い床面に映りこむ列柱の青白い燐光は、少々不気味ではあるが、幻想的と言えなくもない。

 広場中央には、同じく列柱に囲まれた円形の舞台。


 舞台の床には幾何学模様の法円が刻まれ、弱いながらもすでに燐光を放っていた。


 術圧はない――まだ。


 だが、それも時間の問題に思われた。

 舞台上には、すでに人影があったからだ。


 法円の対角線上に四つ。中央に一つ。


 皆、黒い長衣を着て、フードを目深に被っている。

 中央の一人は、他の四人と比べ小柄だった。

 他の四人との違いは他にもあり、中央の者の長衣には、赤くきらめく宝石が散りばめられた瀟洒な縫い取りが施されている。


 その人影に、竜介の目は惹きつけられた。


 が、そのとき、燐光や薄明の弱い光が届かない廃園の闇の中から、まるで闇そのものが分かれるように、いくつもの黒い影が彼らめがけて襲いかかってきた。

 鷹彦が軽く舌打ちする。


「っち、おいでなすったか」


 だが、


「待て」


 風で影を散らそうとする彼を、竜介と黄根がほぼ同時に止めた。

「これは実体のない『影』だ。俺たちには何もできない」

 竜介がそう言ったが、

「え?そうなの?」

 きょとん顔で長兄を振り返る彼の青く輝く身体を、「影」たちが次々にすり抜けていく。

 黄根が呆れたような口調で言った。


「坊主……お前は今、我々が来たことを龍垓たちに大声で教えているのだぞ」


 彼らが黒帝宮にいることを、もしかしたら龍垓たちは「影」からの報告ですでに知っていたかもしれない。

 が、力を使うことは、その情報に加えて、自分たちがすでに禁術を乗っ取る計画を実行に移したと言っているようなものだ。

 黄根の指摘に、鷹彦は青い光を急ぎ消す。

 しかし、


「もう遅い」


 彼ら七人のうちの誰のものでもない、だがよく知った声が聞こえた。


 迦陵だった。


※挿絵はCopilot Designerで生成したAIイラストです。

2024年5月16日木曜日

特別!初夏ディズニー2024・三日目

 


旅行三日目、最終日はランドです。

昨夜からの雨も一段落、日差しもさほど強くなくていい感じの朝。

ランドは「ドナルドのクワッキーダックシティ」開催中のため、パーク中がドナルドにジャックされた状態でした😂

ゲート前花壇も、いつもはミッキーなのに今はドナルドです。激レア😆

ワールドバザールもこんな感じ。


ドナルドの「ボクが一番さ!」という声が聞こえてきそう😁




ええっ、こんなところまで!?とびっくりするほどドナルド尽くし😂

ちなみに一日目のブログでも書きましたが、このときマジミュのエントリーはハズレ、自由席も案内終了(´・ω・`)

自由席がないクラビもハズレたし、時間があるうちにワールドコンフェクショナリーでお土産を買ってから、写真撮りながらファンタジーランドへ移動。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのキャラがスモワに登場する!というニュースを聞いていたのでキャストさんに尋ねたところ、登場は来年冬とのこと。
まだ始まってなかったんか…
でも乗る。

知っている人は知っている、スモワの隠れミッキー😄

答えは真ん中の男の子のズボンの辺りに注目!
光の加減で分かりづらいですが、ミッキーのマークがついているのです😆

スモワを出たら、昼パレの地蔵開始。
夫が留守番してくれるとのことで、私は久しぶりにオムニバスに乗ってきました😄


この時間になると日差しが強くて、日傘か帽子がないとかなりつらい状態でした😵


とにもかくにもパレード開始。



お隣さんがテンション高い若者グループだったおかげで、いい写真が撮れました😂


さて、ここでクイズです。
パレードのあと私達が行った場所はどこでしょう?
ヒントは↓の写真。


そう、ジャングルクルーズです⛴️✨️


修学旅行生のグループと一緒になったので、ジャングルの船旅も盛り上がりました😂

暑くて喉が乾いたので、トゥモローランドテラスで休憩してからスター・ツアーズ。


スター・ツアーズを出たら、いつものクリパレでちょっと早い夕飯の時間、なのですが、私だけレストランを抜け出してドナルドのクワッキーセレブレーション観覧!


立ち見だったけど写真が撮れてよかった~ヽ(=´▽`=)ノ✨️


パレードが終わったら、夫が待つクリパレに戻って、制限時間いっぱいまで再び食事
(忙しい💦)。


お腹いっぱいでもつい食べてしまうデザート。大変美味しゅうございました✨️😋

クリパレを出たらパークを出て帰路につきました。

この日は午後から風が強くなってきて、我々の乗った京葉線が数分だけ停車したり速度を落として運転したりして、帰りののぞみちゃんに間に合うか少しヒヤヒヤしました😓

結果として無事間に合ってよかったです!ε-(´∀`*)ホッ

今回も我が家の定宿、ホテルエミオンのスタッフの皆様には大変お世話になりました🙏😌
パークキャストの皆様にも、安心安全なパークの運営を心がけていただき、ありがとうございます✨️
JR職員、乗務員の皆様も、ありがとうございます✨️おかげさまで今回も楽しく旅を終えることができました。

そしてここまで読んでくださったそこのあなたにも、ありがとうございます!
じゃあね~(о´∀`о)ノシ


2024年5月15日水曜日

特別!初夏ディズニー2024・二日目

 

二日目もいい天気!

というか、この三日間は昼夜の寒暖差がけっこう大きくて、昼間は日差しが強くて暑いのに、夕方以降、日が陰ると羽織物がないと寒いので、晴雨兼用傘とコートの両方を持参してました💦

この日の最大の目的はズバリ、アラビアンコースト内にできた、ファンタジースプリングスへの入口を撮影すること!


工事用の衝立はなくなり、今は柵の向こうがこんなふうに見えてます。😄

地元の小学生?らしき団体が中をうろうろしているのが見えました。うらやましい~!!

ちなみに拡大すると、ラプンツェルの横顔が見えますよ。↓こんな感じ。

わかりやすく赤丸で囲ってみました。

ラプンツェルの横顔の左下にはパスカル(カメレオン)も見えますね。

オープンから数年くらいはすごい人なんだろうなぁ~😓

せっかくアラビアまで来たので、久しぶりにマジックランプシアターを見てからハーバーへ取って返しました。

アプリで確認したら、ソアリンがなんと九〇分待ちという驚異の短さだったのです!

ヽ(=´▽`=)ノヤッター✨️

USJのフォビドゥンと同じ映像系ライド、と言ってしまえばそれまでなのですが、場面ごとに香りが違うのがスゴイんですよ!

サバンナのシーンでは草の香り、海の場面では潮の香り、タージ・マハルの場面はエキゾチックな香りが!風に乗って漂ってくるんです!

ランドのフィルハーマジックでもアップルパイの香りが漂ってきたりしますが、こういうとこほんと芸が細かいです✨️

ソアリンのあとはシアターに移動してBBBを自由席で鑑賞。

BBBが終わったらエレクトリックレールウェイでポートディスカバリーへ行き、ホライズンベイ・レストランでちょっと早い夕食です。

画面左下のカップはココアみたいですが、混ぜると色が変わるポタージュです😁

昨日の櫻もおいしかったけど、ズンのほうがボリュームがあっていいねと夫と意見が一致しました。

櫻のあの雰囲気が好きだし、立地もすごく便利なんだけど、料理の内容はズンのほうに軍配が上がる感じかな🤔

食後は昨日と同じ、エクスプローラーズランディングでビリーヴ!の地蔵です。

この日は私は移動せず、電書を読みつつショーの開始待ち。

読んでいたのはクトゥルーケースブック3・『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』。

そしてこれ↓はディズニーヴィランズで一番クトゥルーに近い容姿をお持ちのアースラ様😂


実はこの日は午後から雨予報で、ショーが始まる頃、ポツポツとごく弱い雨が降り始めていました。
しかし、結局ショーの最後まで傘をさすほどひどくはならず、私は着ていたコートのフードをかぶってしのぐことができました😊


ショー終了後は、ミステリアスアイランドが近かったので、二人で海底二万マイルへ。

なんと、待ち時間ゼロで乗れました~!ヽ(=´▽`=)ノ✨️

こんなこともあるんだねえ😄💞

アトラクから出てきたら、雨はいよいよ本降りになっていたので、少し早いけれどホテルへ戻ることに。

それと、ミラコ通りのアクアスフィア側入口の上にかかっているファンタジースプリングスのバナーが、夜は光る!という話を聞いて、それも見たかったので。

ほんとに光ってたよ~😀✨️


バナー下の羅針盤が光りだすと、バナー上に日付が!


その後は、新エリアのテーマキャラたち(アナ雪、ピーターパン、ラプンツェル)が投影されて終了。




なんて素敵なしかけ!(人´∀`).☆.。.:*・゚

雨が降ってて屋根のある場所から撮影したので、画像が正面じゃないのが残念です😅

日暮れと同時に始まって、閉園まで数分おきに光っているそうなので、見たい人はぜひ。

これ、エリアがオープンしたらきっとまた違う映像になるんだろうなぁ😆

こんな感じで二日目も終了です。

次はいよいよ旅行最終日。続きます!

一日目に戻る

三日目に続く

2024年5月14日火曜日

特別!初夏ディズニー2024・一日目

 


いつもは春と冬しか行かない我が家。
なぜなら子供の学校の長期休みで、なおかつ気候がおだやかな時期を選んで行っているからです。
しかし、今は子供が長期留学で不在のため、GW明けでチケットが安い平日、夫婦水入らずでディズニーに行って来ました😁

ごめんよ子供。帰国したらまた一緒に行こうね😂

ちなみに行き先も、いつもは子供の好みに合わせて一日目陸・二日目海・三日目陸、なのですが、今回は我々大人の好みを全面に押し出して、海・海・陸にしました😆

海猛プッシュです🌊✨️

というわけで、舞浜駅に着いたらそのままランド入り、ではなく、リゾラに乗ってシーへ向かいます。🚃

上の写真はランドホテルなのですが、なぜランホの写真かというと、この日のお宿!
…ではもちろんなく。
単に私がランホの中を見てみたかったから😂

夫と子供はランホのシャーウッド・レストランを利用したことがあるのですが、私は入ったことすらなかったので、時間に余裕があるこの機会に見学?してみたかったのです。

ま、知ってるひとは知ってると思いますが、やっぱりオフィシャルホテルは素晴らしかったです!


ランホ見学が終わったら、リゾラで移動。

この角度でランドステーション見るの初めてなので新鮮でした😄

あっという間にシー到着。



新エリア、ファンタジースプリングスが来月オープンで盛り上がるパーク内。

ミラコ通りの柱にかかっているバナーもかわいい!💖

さて、アトラク巡り大好きな子供がいない大人だけのディズニー旅は、まったりショー観覧がメインです。


BBBはエントリーハズレたので二階自由席から。
実は今回「も」というべきか、全エントリーハズレまくりました。

そう、一日目BBB、二日目BBB、三日目マジミュ・クラビと四回全部ハズレ!

おまけにマジミュ自由席は開場と同時に案内終了😑
まじか…
たしかに、平日なのになんでこんなにと思うくらいパーク内は 大 混 雑 してたけどさ…
どれか一回くらい当たるやろと思うよね…(ノД`)シクシク

ま、BBBを自由席とはいえ二日連続で鑑賞できたことを素直に喜んでおくとしましょう😓

その後はレストラン櫻で早めの夕食、そして夜のハーバーショー、ビリーヴ!の場所取り。


今回はエクスプローラーズランディングから見ることにします。

夫が地蔵してくれるというので、私は空いている時間でタワテラへGO。


タワテラ名物、二面の石像。裏側は↓の奥に見えます。


ここはQラインのセンスが素晴らしいので、並んでいてもあまり苦になりません。



この日はQラインが短くて、最奥にまで行けなかったのが少し残念でした😝


このタマスの像まで来ると、まもなくアトラクションに乗れるので気分🆙



花火がガンガン上がったり、パーク内の池が文字通り火の海になったり、ビリーヴ!はとにかくド派手です🎇


ショーが終わったら閉園まであと一時間ちょっと。
観覧場所から歩いてすぐのところにトランジットスチーマーライン(ロストリバーデルタ行き)の乗り場があるので、乗ってみました。
↑ほぼ貸し切りの船内😄

ところが、着いてみればロストリバーデルタもひとけがない!
キャストさんに尋ねたところ、この時間になるとメディテレニアンハーバーやアメリカンウォーターフロント以外のエリアの飲食店はもう閉まっているとのことでした。
そりゃそうだよね…😐

というわけで、乗ってきたトランジットスチーマーラインにまた乗って戻るか迷いましたが、パーク内の夜散歩もオツだろうと、ぶらぶら歩いてゲートまで戻りました。


来たときは気づかなかったけど、ミラコ通りのウィンドーでは、ファンタジースプリングスオープンに向けた広告が動いてました✨️
さすがディズニー、芸が細かい✨️

ホテル行きシャトルバス乗り場に着いたら、すでにバスが到着していたので、飛び乗ってホテルへ🚌

こんな感じで一日目は終了です。
続きます!😊二日目に続く

2024年5月2日木曜日

紅蓮の禁呪144話「竜と龍・一」

 


 そのかすかな術圧を感じたとき、龍垓はわずかに頬を緩め、迦陵は眉を顰めた。


 黒帝宮の前庭、迷宮庭園。

 「庭園」とは名ばかりの廃墟である。

 植栽に水を供給するために引かれた水路は虚ろにひび割れ、立ち枯れた植物たちの枝や根がはびこり、庭園を飾る列柱や彫像を痛めつけている。

 今にも倒壊しそうな木々や柱から幾重にも垂れ下がる枯れた地衣類の影は、不気味な亡者の群れのようだ。

 しかし今、気の遠くなるほど永い時間放置されてきたその廃園の中で、往年の輝きを取り戻しつつある場所があった。


 庭園中央にある、円形広場。


 つややかな黒大理石を敷き詰めて造られたその場所は、同じ黒大理石の列柱に囲まれ、中央には直径十メートル程度の円形舞台が設けられている。

 床から舞台までは同心円状に段差の低い階段が二段。

 この円形広場周辺と、そこから宮殿までの通路だけは、地衣類や植物の根などが取り払われ、昔ながらの美しい床面が顔をのぞかせていた。

 舞台の上には床材と同じ黒大理石の円柱が、正方形を描くように四つとその対角線が交わる中央に一つ、建っている。

 大人の胴回りくらいの太さに、腰くらいの高さのその円柱には、他の列柱とは違い精緻な饕餮文が彫り込まれていて、彼らはそれらに瑕疵がないか確かめて回っていた。


 彼らが術圧を感じたのは、そのときのことだった。


 それは遠くで投げ入れられた小石が水面に起こした波紋のように微かなものだったが、彼らはその術圧が雷迎術のものであることを即座に感じ取った。


「主上……」


 迦陵が苦々しい気持ちで言いかける。

 が、龍垓はそれを皆まで聞く前に遮った。


「儀式の日延べはせぬ」


 そのきっぱりした口調に、迦陵は眉間のしわを深めたが、何も言わなかった。

 闇が最も深く、黒珠の力が高まる冬の新月。

 これを逃せば禁術の起動が難しいことは、迦陵もよく知るところだからである。


 しかし、と迦陵は思う。


 たった今雷迎術を発動させたのは、おそらくあの竜介という碧珠の若者であろう。

 彼が龍垓と同じ顕化の持ち主であることを、迦陵たちは日可理の記憶のおかげで知っている。


 そして、今の術圧が彼ら黒珠のもとにも届くであろうことは、碧珠の者たちも承知しているはずだと迦陵は思っていた。

 つまり、これは彼らからの事実上の宣戦布告なのだ、と。

 新月の夜、彼らがこの黒帝宮へ来るつもりであることは間違いない。

 もとより喜んで相手になるつもりではある。

 ただ一つ、懸念があるとすれば、自分が「影」になってしまった場合、再び受肉するまで龍垓を一人にしてしまうことだけが心苦しい。


「そう案ずるな」


 不機嫌に黙り込む部下をどう思ったか、饕餮文の確認を終えた龍垓は迦陵を振り返ると、再び口を開いた。

「向こうから封滅の術を受けに来るのだ、引導くらい渡してやろうではないか」

 黒珠の王は自分のそばに寄り添うもう一つの人影に一瞥を送り、そう言ってほくそ笑む。

 迦陵はもはや何も反駁せず、

「御意」

 とただ一言返して頭を垂れた。


 封滅を受ける前、己が何者であったかという個人としての記憶など、とうにない。

 残っているのは主への忠義のみ。

 その思いが己の姿を人として保てている所以だとすれば――

 ならば、その忠義を全うすることの他に、進む道があろうか。


 宮殿内へ戻った彼らを、黒い長衣を着てフードを目深にかぶった「影」が出迎えた。

 フードの奥の闇に、白木の仮面が浮かんで見える。

 迦陵たちが「雑色(ぞうしき)」と呼んで使っている者たちである。

 雑足の長衣の中身は半実体の「影」だが、仮面の額に刻まれた呪符が、不安定な半実体である彼らに仮の実体を与えている。

 個々の記憶や性格などは失われているため、ただ言われたことを言われた通りにこなすだけの存在だ。

 それでも頭数が多ければそれなりに役に立つ。

 龍垓たちを出迎えた雑足は、風が吹き抜けるような音で言葉をつむぎ、伺候者の受肉が完了したことを告げた。


「間に合ったな」


 満足げにうなずく主を、迦陵は複雑な思いで見ていた。

 封滅の儀を他日とする理由はもうない。

 新月は、明日に迫っている。

 再び闇に沈むか、それとも勝利を手にして呪われた楽園を築くか。


 いずれにしても、明日、すべてが終わるのだ。


 ***


 新月当日、朝。

 竜介たち紺野家の三兄弟と泰蔵・玄蔵親子、白鷺家の姉弟、そして黄根老人の八人は、紺野家から最寄りのヘリポートに集まっていた。

 当初の計画では、ここから東京のわだつみホールディングス本社ビルまで白鷺家のVTOL機で一直線の予定だった。

 ところが、新月が近くなるにつれ、東京の気候はどんどん不安定になり、連日零下二十度を下回る極寒と、断続的に襲ってくる激しい雪雷による停電とで、あらゆる航空機に飛行許可が降りなくなっていた。

 本社ビルの屋上ヘリポートには融雪器もあるが、停電ではおそらく機能していないだろう。

 何より、ヘリコプターなどの垂直離着陸機は、雪上着陸ができない。

 ローターの風が巻き上げた雪で視界がホワイトアウトすれば、墜落の危険があるからだ。

 青梅市まではかろうじて飛行許可が降りたのでVTOLを使えるが、そこからは陸路ということになった。

 新月を迎えるのは夕方六時四十三分。

 黒珠がその時刻に封滅の儀式を始めることは、日可理が迦陵と共有した記憶からの情報なので、間違いない。

 それまでに彼らは本社ビルにたどり着いていなければならない。

 青梅市の民間ヘリポートはきれいに除雪されていて、虎光が操縦するVTOL機は無事着陸することができた。

 さらにそこから先の道路も、消防庁の除雪車が特別に先導してくれる手筈になっていた。

 通常なら本社ビルがある新宿までは、一般道を通ったとしても二時間もあれば余裕で着ける距離である。

 しかし、除雪車は作業中、一般車両と同じ速度では走れない。

 それに、竜介たちが乗る十人乗りワゴン車も、念のためチェーンを巻いているため、いつも通りの速度を出すのは危険だ。

 そんな理由から、通常の倍以上の時間をかけてのドライブとなったわけだが、これは彼らにとって、久しぶりにじっくりと東京の街並みを眺める機会ともなった。


 まだ日暮れ前だというのに、空にかかった分厚い雲のせいで薄暗い街並みには灯る明かりもない。

 沈黙している街灯や信号機からぶら下がるつららが、まるでうなだれているようだった。

 切れた送電線があちこちで地面に垂れ下がっているが、これも火花が散っていたりすることなく、ただ静かに凍っている。

 安全のため送電をやめているのか、それとも変電所自体がこの寒さで支障をきたしているのかは、わからない。


 あらゆるものが雪と氷に閉ざされた廃墟。


 それが、彼らが久しぶりに見た東京の姿だった。



*筆者注:挿絵はAIによるもので、実在の建物とは関係ありません

紅蓮の禁呪157話「禁術始動・四」

   まる四日眠っていた、と医者から告げられたときは自分の耳を疑った。  診察の結果、医者は紅子をまったくの健康体だと請け合って、彼女の身体に取り付けられていた管やセンサーを外してくれたあと、 「今夜一晩様子を見て問題なければ、明日の午後退院しましょう」  と言って、看護師を連れ...