ちょっと今さらですが、読みました~。
というわけで、いつものようにネタバレありまくり感想です。
タイトルまんまですが、江戸時代中期に実在した画家、伊藤若冲を主人公にした「時代小説」です。「歴史小説」じゃないですよ。
歴史的な出来事は作中でも史実通りですが、「時代小説」なので、登場人物は実在・架空が混在しています。
この物語の語り手である「志乃」からして、架空キャラですし。
実在の人物であっても、いわゆるキャラ立ちが作者オリジナルだったりします。
若冲は、史実では女性に興味を示さず、生涯独身だったそうですが、この小説では、結婚して2年後に縊死した「三輪」という妻がいた、という設定になっておりまして、この妻女の死をぐちぐちぐちぐちと、まあ実に死ぬ直前まで悔やみ続け、その結果として生まれたのが、今も世に残る数々の名画だったのだ!という、まあ有り体に言えばそんなお話です。
しかし、それだけでは若冲がただの暗い人になっちゃうので、彼の罪の意識により説得力を持たせるため、三輪の弟・弁蔵が、姉を死なせた若冲憎さに贋作者「市川君圭」となって、復讐のためにひたすら若冲の贋作を描いたという設定になってます。
安っぽい贋作を描き散らして売り、若冲の作品や彼の絵に対するプライドを嘲笑し踏みにじることで、復讐としたわけですな。
市川君圭という贋作者は実在したようです。
この作品で書かれているほど「執拗に」若冲の作品ばかりを狙ったかどうかはさだかではありませんが。
(もし仮に、若冲の贋作が多かったとしても、当時人気の絵だったから、という気がします)
さてさて、この弁蔵さんがまた、若冲と同じくらい思い込みが激しくてうっとうしくて、読んでて何回か「うえ~~~」ってなりました(^_^;
でもまあ、あれくらいじゃないと、作品の終盤までずーっと続く若冲さんの「贖罪」にも説得力が生まれないしな。
物語は、実家が裕福(若冲の生家は、錦市場の青物問屋)なおかげで絵の具代に事欠くこともなく絵に没入できる若冲と、若冲に復讐するために文字通りすべてを捨てて貧しい贋作者となった弁蔵との対比を軸に、円山応挙や与謝蕪村、池大雅、谷文晁ら絵師との交流のほか、『宝暦事件』、錦高倉市場の閉鎖危機、天明の大火といった歴史的な出来事を踏まえて展開。
ラストは大団円ではありませんが、物語の終盤、ずっと対立し続けた若冲と弁蔵が、若冲が弁蔵の贋作(という設定の作品)を自分が描いたと言い、また、若冲の死後、弁蔵が安価で売り飛ばされようとしていた若冲の作品を有り金はたいて買い取ろうとするという、この二つの場面によって、二人が実はうすうす互いの絵を認め合っていたことを匂わせ、どちらが欠けても「伊藤若冲」という絵師は存在し得なかっただろう、という終わり方になっています。
で、全体を通した感想。
「笑いがない」。
ごく一部、朗らかな人物も登場しますが、笑える場面はなく、ずーっと深刻な感じ。
笑いあり涙ありの人情時代劇を読みたい人は、他を当たってネ!みたいな。続けて読んでいると眉間にシワが寄るので、私は休みながら読みましたw
作者氏が京都の人なので、作中の京言葉は大変正確。というか、正確すぎてちょっと理解できない人が出てきそうなレベル。
作中では、若冲の作品が「華やかだがどことなく陰気くさい」だの「見る者の目を意識しない独りよがり」だのとさんざんな表現をされていましたが、まあこれも「この作品ではそういう設定」ってことかな~、と。
たしかに、当時の絵としては珍しく写実的ですが、陰気くさいかというとそんな感じはしないし、独りよがりどころか、見る人の目を意識しまくってる絵だし。
興味のあるかたは、ぐぐってみて下され。
「伊藤若冲」で画像検索すると、いっぱいヒットすると思いますよ。
最後に、この作品に☆をつけるとしたら、まあ私なら三つくらいでしょうか。
歴史小説として読むには架空の人物や設定が多すぎるし、江戸時代を舞台にした時代小説として読むには、話が辛気くさすぎる。笑えるわけでもないし、さほど泣けるわけでもないし。
国内外で大人気の「伊藤若冲」が主人公でなければ、私は手にも取らなかったと思います。
2017年6月23日金曜日
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